第2章 カラスと天使

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「ベリアルとか言ったな?お前が差別主義者なのは分かった。そしてお前・・・・・・ここに来ないだろ?」 俺は睨みつけながら問い掛ける。 するとベリアルは一段と楽しそうな様子で口角を上げて「なぜです?」と聞いてくる。 「お前がよくここに来ているなら悪魔達はあそこまでかしこまらないはずだ。そして何より、お前はここの住民の悪魔の事を知らなさすぎるんだよ」 俺の言葉にベリアルは一瞬考えるが、すぐに 「彼らの事は知っていますよ?彼らは人間を地獄に堕とす為に作られた私の下僕であり、その性格は狡猾で残酷非道・・・・・・当たっているでしょう?」 と、笑って言ったが、俺は納得いかず鼻で笑って言い返してやる。 「ほら、なにも知らないじゃないか。ここの奴らは狡猾でも残酷非道でもない、人間である俺に食べ物や家を与えてくれた心のある悪魔達だ。お前なんかの下僕じゃないぞ、分かったか、イケメン」 俺はそう言いながら、ベリアルの赤い瞳をじっと見つめてみる。するとベリアルは、 「・・・・・・私の下僕ではない?心がある?本当にそうなら、ここにいる悪魔達は欠陥品ばかりですね」 俺はベリアルの言葉の意味を、頭の中で理解しきれずにいた。コイツの脳内はどうなってるんだ? どういう思考回路をすれば、ここに居る悪魔達が欠陥品だなんて言えるんだ。 するとベリアルはふーと深いため息をついて 「欠陥品と分かった今、生かしておく価値はない」 と、冷淡に告げ、悪魔達の方を見た。 「人間なんかに関わったせいで悪魔としての価値を失ってしまった悪魔達・・・・・・君達には悪いですが消滅してもらいます。二度と復活しないように」 ベリアルはそう言い、剣を抜いた。 そして一人の悪魔の元に歩いて行って、剣を振り上げたが、そこで───ピタリと動きが止まる? 俺が悪魔とベリアルとの間に立ったからだ。 悪魔達は俺とベリアルを交互に見ると顔を真っ青にしながら叫ぶ。 「やめろ、クロ!そのお方にはお前じゃ勝てない!それに俺達は悪魔なんだ、人間であるお前にとって俺達は邪魔者だろ!?助けなくて良いんだ!」 確かに死ぬ前はそう思っていた。 だが、死んで、よく考えて分かった。もし悪魔が居なかったら・・・・・・って。 「地獄や悪魔という存在はブレーキなんだ。その存在を信じていなくても心のどこかでその存在を信じているからこそ、人は罪を犯す前に立ち止まるんだ。もし地獄や悪魔という存在がなかったら、人間は好き放題に生きるから、クズの集まりになる・・・・・・だからお前らには生きて人間達のブレーキになってもらわないと困る!お前達を守る為ならこの腹立つイケメンに殺されても本望だ!!」 ああ、言っちゃったよ。 なんか凄そうな立場の悪魔に地獄の存在意義の説明をしてしまった・・・・・・! でも間違った事は言ってない。だから後悔してないが、殺すなら殺すで苦しまないように早くスパッと殺して欲しい。 そんな事を考えていれば、頬に何かが触れるのを感じて俺は息を詰まらせる。 「あ〜〜〜!気に入りました!!」 その声と共にギューッと抱き締められた。 俺が驚いて身体を離せば、目の前に居るベリアルがうっすら頬を赤くしながらブツブツと呟いている。 ああ、こいつMr.と同じか・・・・・・えっ、なに、悪魔ってそっち系の奴が多いのか?困るんだが。 「この私に意見するだけでも驚きなのに、地獄の存在意義まで言ってくるとは・・・・・・ああ、本当に素晴らしく命知らずな人間ですね」 そんな事を言いながら、ベリアルは満面の笑みで俺を見つめてくる。 「黒羽さん、私の城に来ませんか?食べ物も飲み物も全て保証してあげますよ。こんなボロい街より私の屋敷の方が何倍も・・・・・・」 「行きません」 「え?」 ハッキリとそう言った。すると、ベリアルが目を大きく開き、信じられないという表情で言った。 「私の屋敷ですよ?悪魔も人間も誰もが来たがる家なのに。来たくないなんて、おかしいんですか?」 腹立つな、コイツ。やっぱり殴ってやろうか? そう思っていた時、ベリアルはピタリ、と動きを止めてなにか思い出したように軽く手を叩いた。 「もしや照れているんですか?」 「はぁ!?」 ついに壊れたのか美形悪魔!!!! 「分かりますよ、なんていったって私の屋敷ですからね〜。照れるのも困惑するのも仕方ありません、なので特別に考える時間をあげましょう」 ふざけるな、なんで上から目線だ!少しくらい話を聞いたらどうなんだ、この悪魔! 本当に面倒臭い奴だな!! ・・・・・・なんて思いながらも口にはだせるわけもないので、俺は話の成り行きを聞くことにした。 そして分かった事が二つある。 この悪魔は悪魔としてはかなり有能らしく、やる気にさえなれば、この街を吹っ飛ばせるくらいの力と権力を持っているということ。 それと悪魔殺人事件を調べている人物でもあるらしく、俺にMr.の居場所を聞いてきた。 だが、そのMr.に会うことは既にできない。と いうか、居場所を知っていたとしてもこんな腹の立つ変態イケメン悪魔に教えたりするものか。 そう思いながら俺はしつこく屋敷に誘ってくるベリアルを追い払った。
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