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誰なんだ?俺はなんとか動く手で目を拭って、よく見えようと目を細める。
すると、そこには、
「・・・・・・妙な気配を感じて来てみれば、何をしているんですか貴方は?」
まるでこの世の全てを憐れみ、そして軽蔑するような目で男を見つめているMr.がいた。
俺が今までに見た中でも、一番邪悪な目つきで、思わず身体が震える。
「あァ?てめぇ、悪魔か?にしては変な格好だな、ピエロみたいだ」
Mr.は俺を見ると静かに近付いてきて、白い手袋で俺の口周りを拭った。
俺はその白い手袋が、自分の血で塗れている事に気付いて顔を背ける。するとMr.は俺から離れると後ろで騒いでいる男の方へと近付いていく。
男がそれに気がついた瞬間、男は首を折られて無様に地面に倒れ込む。それを見てMr.はクククと喉の奥で小さな笑い声を漏らした。
俺がそれを見て、目を背けようとすれば何かに首を固定されたような感覚に襲われる。
「クロくん、目を背けたりしないで、しっかりと見てくださいよ。貴方をいじめた人達がどういう死に方をするか・・・・・・心に刻み込んでください」
Mr.の言葉が耳に入った瞬間、体が震えて、震えが止まらなくなった。
「や、めろ、Mr.」
喉の奥から震える声が漏れるだけで、俺はそれ以上何も言おうとせず、口を開いたまま動かなかった。
「優しいですね、クロくん。本当に貴方は優しくて素晴らしい人です。こんなクズにも同情して」
そう言いながらMr.は自身の足元に居る男の頭を乱暴に踏みつける。
男は喉の奥から、悲鳴を上げるような声を上げて、必死にもがいた。
しかしMr.は足を止めず、男の頭を何度も、何度も何度も踏みつける。
その度に喉の奥からは悲鳴が溢れる。俺はMr.に近寄る事も出来ず、ただその悲鳴を耳にすることしか出来なかった。
「ああ、これだから悪魔や人間は嫌いなんですよ。優しいクロくんを利用して、騙して、陥れるような奴らしかいない」
Mr.はそんな事を言いながら、今度は男の体を踏みつけながら、更に足を動かしていく。俺はMr.が何をしているのかが全く分からなかった。
Mr.の行為は俺に、恐怖を湧き上がらせた。その恐怖の原因は、俺を殴っていた男じゃない、Mr.が引き起こした物だ。
彼は俺を傷付けたいわけではなくて、俺をこんな状況に追いやった奴を懲らしめる為に、こんな事をしているんだろう。それは分かった。
だが、そう頭では理解していても、俺は平然とこういう事ができるMr.に恐怖を覚えた。
男の頭は既に原形をなくしかけていて、下手すればミンチにしか見えないような状態だ。
それでも男は、なんとか堪えて、呻きながら俺の方を見て手を伸ばす。すると、俺の姿が目に入った途端、Mr.は男の頭を踏み付けて息の根を止めた。
俺はその光景を見つめるしかなく、男がもう助からない事をはっきりと理解した。
するとMr.はまとっていた冷たいオーラを消して、何事もなかったように近付いくる。
それに対し俺は、少しでも早くこの場を離れたかったが身体が縛られているように動かないのだ。
それに加え、先程のMr.が見せてきた光景のせいで今のMr.は俺にとって何よりも恐ろしい存在だった。
「クロくん、優しい貴方の代わりに私が殺してあげましたよ。どうです、嬉しいでしょう?」
確かに仮面越しに見えるMr.の目や仕草から優しさを感じさせるものを感じる。だがMr.の一挙一動に俺の身体は過剰に反応して震えて、ついには涙が零れてしまった。
「あ、あれ、も、もしかして・・・・・・泣いているんですか?どうしてなんです?嬉しいでしょう?」
その困ったように反応に俺は困惑し、何と言葉をかければいいのか分からなかった。
するとMr.は慌てたように、
「えっと、ごめんなさい。なにか気付かないうちに気に障る事でもしましたか?」
そう言って、Mr.が右手をこちらに伸ばして、俺の頭にそっと乗せる。
「ああ、お願いですから、泣かないで、私は貴方の涙には弱いんですから・・・・・・ね?ほら笑って?」
そんな事を言うMr.の瞳の奥には、優しさや信頼、慈しむ色すらも滲んでいる。
俺と目を合わせてくる瞳は、どこまでも穏やかで、いつも俺は惹きつけられてしまう。
「Mr.・・・・・・Mr.は俺のなんなんだ?」
俺は震える声で、Mr.に問いかける。ただ知り合いというだけでここまで良くしてくれるはずない。
その優しさはには俺にはわからない何かが隠されているのかもしれない。だってMr.は、ただ、俺に安堵と幸せを与えてくれるだけで、なにも見返りを求めないから。
「貴方は命の恩人なんです、約立たずで、何の価値もない私を貴方は救ってくれた・・・・・・だからクロくんの役に立てるならこの命も捨てて良いんです」
その瞳には少しの迷いも見えない。本当に心からそう思っているのだろう。
「なら・・・・・・頼むから・・・・・・これ以上、人を、悪魔を殺さないでくれ。前みたいに話してくれよ」
そう言うと同時に俺は身体の力が抜けていくのを感じて、地面に倒れた。
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