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「悪人と出掛けるだなんて無防備にもほどがありますよ。 ちゃんと周りに気を付けていないとこんな風に殺されてしまうかもしれませんから。 ね?」
背後から聞こえてきたのはベリアルの声で首筋を締めていた手袋付きの手ははゆっくり離れた。
振り返った先にはニコニコと普段通りに微笑んでいるベリアルが居て、俺の手元から手紙を奪うと表情を少し引き攣らせながらその手紙を読んだ。
「・・・・・・この手紙はシュウからですか?」
「あ、ああ、さっき見つけた」
「こんなの信じませんよね? いつも貴方に執着と殺意しか向けていないシュウと、常に貴方を気にかけて手伝ってあげてる凄く優しい私。 どちらを信じるか、なんて言わなくても分かるでしょう?」
そう耳元で言われて全身に悪寒が走った。
まるで蛇が身体中を這っているような何とも言えない感覚に震えそうになるのを堪えながら言う。
「もちろんだ、ベリアル。 いつも感謝している」
──言わされた。
こう言わなければ殺すとでも言わんばかりの強い殺気に気付けば口がそう言葉を紡いでいた。
「それは良かった! もしかしたら、シュウに洗脳されているのかと心配したんですよ? これからは私に言ってくださいね。 今後も私に黙って誰かに会う気なら私の部下をボディガードとして送ります」
・・・・・・まるで俺は首輪のついた犬だな。
どこに行くにも報告なんてする義務はない、が、コイツは『心配』という理由で、さり気なく俺の行動や言葉一つ一つを把握しようとしている。
自他共に認める優雅で美しい容姿。
だが、その裏には、何か、嫌なものがある。
「アリスさんが寂しがっていましたよ、早く帰って安心させてあげましょう。 さぁ、私の手を取って」
コイツがただの良い悪魔じゃないのは分かる。
でもそれを口に出してしまうのは駄目だ。
感情的に行動して後悔するのはもう嫌なんだ。
「ああ、そうだな」
──あの時みたいな失敗はしない。
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