第10章 取り戻した記憶

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俺の目に映ったのは、人ではない何か。 何かとしか捉えられないのは、周りに立ち込める煙のせいか、はたまたその異形を表現する言葉がこの世には存在しないか、もしくはその両方か。 家全体に火の手が上がっている中で、俺の額には汗が流れ続けている。 皮膚をも黒焦げにしてしまいそうな高温の中ではすぐにでも気化し兼ねない雫だったが俺の汗は引くことをせず、寧ろ氷のように冷たく感じた。 その理由を俺は理解してしまった。 目の前に転がるのは彼女の母であった肉塊。 そして今、異形によって持ち上げられてる父親が何十、何百以上の肉塊に変わり果てた。 「お兄ちゃん! 父さんが、母さんが・・・・・・」 俺の近くにいた少女が、惨劇を目の当たりにしたせいで思わず叫んでしまった。 火のオーケストラが奏でる火花に負けない声量に異形が気付かない訳も無く(寧ろ声を発しなくても気づいていた可能性もある)異形は近づいてくる。 「逃げるぞ、ユメ!」 俺はユメと言う名の少女の手を取って、階段から下の階に降りることを決意した。2階建ての一戸住宅とは言え、窓を使っての脱出はまだ幼いにユメとって命がけの行為になることは分かってた。 しかし、今回ばかりはその判断が仇となった。 「うわっ!?」 ベキッと言う音と共に火の浸食を受け続けていた階段が遂に限界を迎え、そこに、俺の体重と言う追い打ちを受けたせいで、階段は崩落してしまう。 熱さとは別の熱い物が体内に生成されていく妙な感覚に襲われる。突発的なアクシデントに受け身など考える余裕も無かった俺は背中から火と階段の端材の上へと転落し、身動きが取れなくなる。 「お兄ちゃん!」 吹き抜けとなった2階から夢の顔が見えた。 落ちる瞬間慌てたせいで手を放したのが功を奏したか、ユメは転落して怪我を負う事無く済んだ。 もっとも、それはをせずに済んだだけであり、それ以上の何物でも無かった。 俺の視界は瞼と言う闇に覆われていった。 俺な最後に見たのは、胸部を何かに貫かれ、あり得ない量の吐血をした少女の姿だった。
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