第10章 取り戻した記憶

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俺は再び目を覚ますことは無いと思っていた。 だが、俺は再び景色を映し出す事が出来た。 真っ白な天井はあの日見た煤でくすんだ景色とは正反対の、いわゆる、日常だった。 「! 先生! 黒羽さんが目を開けました!」 俺は駆けて行った白衣を着た人物を見て、ここが病室であることを理解した。 看護師が出て行ってから数秒もしないうちに医者がやってきた。 「もう少し呼吸器の方はつけておきましょう。あの大火事の中で数時間も煙を吸っていましたから肺器官が弱っていてもおかしくはありません」 医者は今後の処置について看護師に説明した後で俺が居る病室を後にした。 看護師も準備の為にすぐさま病室を後にした。 少しばかし回復した視力で周囲を見渡してみたが俺以外の患者はいない。完全に個室のようだ。 身体の節々に火傷と負傷による痛みが付きまとう。 その痛みが少年の記憶を鮮明に思い出される。 (何だったんだあいつは) 漠然とした記憶の中では異形の形すらも思い出すことは出来ない。 寧ろそのことを思い出すたびに沸き上がる感情は、とてつもなく深い憎しみだ。 ユメの家族を全員殺した相手。 何の前触れもなく平和な世界を壊した存在。 「おやおや、アレを前に生き残る人間が居たとは」 誰もいなくなったはずの部屋に声が響いたことに俺はほとんど動かない首と目を左右に動かす。 そして、いた。 面会者用と思われる丸椅子に足を組んで座る何者かは少年を舐めるようにジッと見ていた。 ただ、その人物は少年の親族でも何でもない。 寧ろこんな親族がいたとしても、だ。面会を拒絶されそうな出で立ちをその変な男はしていた。 顔面をピエロのように真っ白に塗り、青いシルクハットに青と白の縦縞のシャツとズボン。 道化師のような姿をした男はハロウィンでも無い限り公共施設に入るどころか表を歩くことさえもできない。 そんな男がどうしてここに、そもそも入り口が開いた気配すら感じられなかった部屋にどうやって侵入したのか、俺にとってこの男は例の異形と同じく不思議な存在だった。 「異形みたい──そうでしょうね。私はこう見えてかなり上の立場を任されていまして、同族達にはペテン師と言われてるんです。酷いですよね?」 (同族? ペテン師?) 「分からないでしょうね。事実、表向きには私達は存在しないものとされていますから・・・・・・ああ!私はメフィストと言います、種族は悪魔です♪」 (悪魔? そんなもの存在しな、) 「しないと思うでしょう? でも、悪魔というのは存在します。 しなければ世界は成り立ちません」 道化師、メフィストは俺の心情が読めているかのように話すことが出来ない俺の疑問を有り得ないくらい丁寧に教えてくれる。 メフィストは丸椅子から立ち上がり、俺の側へと歩み寄り、上から俺を見下ろしながら微笑んだ。
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