第10章 取り戻した記憶

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「最も、君もここから退院する頃には私やあの化け物の存在を忘れているでしょう。 政府によって」 (政府が? なぜ?) 「悪魔が本当に存在すると分かれば人類はパニック状態になってしまう。 そして悪魔と契約して国を乗っ取ろうとするテロ紛いの人間も出て来るのかもしれない。 それを阻止する為に悪魔と契約を交わし、悪魔を研究する機密結社が作られました」 「今世間を賑わせている『大井戸町連続放火事件』を裏で作り上げて、悪魔が原因であることを隠蔽する為に努力している苦労人たちの集まりをDDと呼びます。君は悪魔を見てしまい、尚且つ生きています。君はDDにとっては厄介な種の一つになってしまいました」 秘密結社と呼ばれる胡散臭い存在に疑問を持つもそれ以上に自身が厄介な種になっていることに不安を感じる。一体何をされてしまうのか。 そんな気持ちで頭がいっぱいになってしまった。 「別に殺されるわけではありませんよ?記憶処理の一環を受けるんです」 俺の言い知れぬ心の不安は、隠し事も何も許されないメフィストによって読まれてしまう。 (記憶処理って、記憶を消されるってこと?) どんなに努力しても無駄だしメフィストには俺の心を逆撫でするような不快な点が無かった事から俺は率直に質問を投げかけた。 「ご名答、その通り」 だが、それもここまでだった。 メフィストは少年の心を掌握し始める。 「君が知る事件の記憶は全て消されてしまいます。君の知り合いであるユキちゃんの両親は放火事件で死んだ。そしてユキちゃんも同様に、です。 化け物何ていなかった。 殺したのは君という事になるでしょう」 (なんで、俺になるんだ?) 「君はあまり噂が良くなかった。 街では不良扱いされ、暴力沙汰ばかり、ついこの間ユキちゃんの両親と大喧嘩して『殺してやる!』と言っていたらしいですからね、DDの方々はそこに目をつけて貴方に罪を擦り付ける事にしたんでしょう」 ペテンの推測に罵声の反論をしようと試みるも、口には人工呼吸器が取り付けられ、手は痛みのせいかほとんど動かすことが出来ない。 「そうなりますよね。憎しみの相手を、記憶処理で無かったことにしちゃいまーす。・・・・・・なんて、自分勝手だよね。そうだよね。そんな君に僕から素敵なプレゼントを差し上げようと思いま~す」 外に漏れそうな拍手喝采、声高らかに宣言してるメフィストの姿に俺は疑心暗鬼になる。 が、動けない以上ペテンの独断、独占演説は続く。 「君はこれから『悪魔』として生きる。それは辛く悲しいかもしれない。でも、もし、貴方が死んで地獄で再び私と会えたら──その時は何でも一つだけ願いを叶えるという約束をしてあげます」 メフィストはそう言った後、一斗缶位の大きさの奇妙な箱を何にもない場所から突然取り出した。
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