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「ごめん」ボールを拾う途中、拓真は小さく吐き出す。「どんまい。あれは岡がすごすぎるよ」林は微苦笑した。
たった一本。どんなにビッグプレーだったとしても、一点は一点に過ぎない。それでも、拓真は悔しかった。「すごすぎる」と素直に褒めた林のように、自分はもう笑えない。いつからか、すごいすごい、と思い重ねすぎて己が嫌になった。わかっていても認めたくない、他人がそういうセリフを口にすることさえ、癪に障る。我ながら重症だと思った。
振り返ると好機とばかりに、安易にクロスへ打ってしまった。考えてみれば、読み待ちしやすいパターンだったかもしれない。とはいえ。あの龍平がそう頭を使ってプレーしたとは思えない。先ほどの回り込みのフォアハンドはたぶん、お得意の「勘」だろう。
二本目のサーブも、短く下回転だった。
龍平はストップレシーブ。林はいったん三球目攻撃の構えを見せたがストップで返球。そして思いがけぬことに、これを受けた村田もストップを選択した。拓真は戸惑う。が、次が龍平だということもあり、またもストップ。両ペア合わせてストップの四連続、ネット際の攻防、均衡を破ったのは龍平だった。前方に踏み込むと同時、手首のスナップを利かせて払い打つ。林はノータッチで打球を見送った。
「ワン・スリー」
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