プロローグ

4/7
前へ
/104ページ
次へ
 廣田がサーブをミスしたのは、この試合中ではじめてだった。龍平はセットポイントを得た。 「岡、しめるぞォ!」  芦田野ベンチからキャプテンが叫んだ。  このセットを龍平が穫れば2対2。試合は最終セットへともつれこむこととなる。  拓真は息をのんだ。ベンチとコートはニメートルほどしか離れていない。だが実際の距離以上に拓真には遠く感じた。  廣田がトスをあげると同時に、龍平はステップを踏んでタイミングをあわせる。フォアよりにきた短いサーブを、フリックで廣田のミドルへ返球した。合わせぎみに廣田は龍平フォアへドライブする。龍平はそれをストレートコースにカウンタードライブで攻めると、次の打球をわかっていたかのようにバックサイドに回り込み――強烈なフォアハンドドライブを決める。力強いガッツポーズが飛び出る。 「11ー9(イレブン・ナイン)」  とたん芦田野ベンチと観覧席の芦田野サイドがわいた。興奮でほとんど雄叫びとなった声援を送りながら、拓真は両こぶしを天に突き上げた。  試合に出たい。団体メンバーとして。  衝動のままに叫んだあとは、まるで自分がコートについてプレーしたかのように息が苦しかった。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

14人が本棚に入れています
本棚に追加