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お弁当とお弁当箱
実はテーマとモチーフに関する話をしたいのだが、この二つの用語は日本語でも英語でも定義があいまいで、しかもジャンルによって使い方が異なる。
個人的にはモチーフが書きたい内容、テーマがそれに与えられる形式、という感覚で使ってきたのだが、人によっては逆であったりして、非常に話しにくい。であるので、お弁当の話にしようと思う。
あなたが誰かのためにはじめてお弁当を作るとしよう。がっつりお肉を食べて元気になってもらいたい、という思いが最初にある。
そこで、豚の生姜焼きを作ろうと思い立つ。
豚の生姜焼きだけを詰めたお弁当箱というのはいろいろ無理があるので、ニンジンのソテーやレタスや豆のサラダやごはんをバランスよく詰め込む。あくまでメインは豚の生姜焼きなので、ハンバーグだとかとんかつだとか、主張の激しいものを混ぜたりはしない。生姜焼きを「おいしいな」と思って食べてもらうのがあなたの目的だ。そのためにはまた、ぱっと見ておいしそうで、食べ始めると次から次へと箸が進むのが好ましい。
お弁当箱はどういうのがいいか。蓋が透明で、豚の生姜焼きが最初から見えているのがいいのか、蓋をあけたときに驚きがあったほうがいいのか、可愛いのがいいのか、お弁当箱自体は主張しないほうがいいのか。そのへんは、あなたが誰にお弁当を食べてほしいかによるだろう。
親しい誰かのためならそんなに悩むことではないだろうし、初めての相手でも、男の子か女の子か、年齢はどれくらいか、そういう手がかりがあれば決めていくことができる。
さて、完全にお弁当の話になってしまったが、小説もそんなふうに書くべきだと私は思う。
もちろん、順番が逆になってしまってもかまわない。最初に思いつくのが生姜焼きのイメージで、とにかく生姜焼きを自分が食べたいからお弁当をつくる、ということでもぜんぜんかまわないと思う。それでも、読者をエブリスタのメイン層と考えるのか、コンテストの審査員と考えるのか、マジョリティではなくても自分の料理を好きだと言ってくれる人たちとするのかで、他のおかずやご飯とのバランスや、お弁当箱の選び方は決まってくると思う。
いずれにしても、ウェブサイトで作品を発表するということは、自分以外の誰かがそれを食べて、美味しいと思ったり、そうでもないと思ったりするということだ。せっかく作るんなら、できるだけ多くの人に美味しいと感じてほしいし、元気になったり、ゆったりした気分になったりしてほしいと、私は思う。
テーマとかモチーフとかコンセプトとか、いろんな言い方があるが、そういうことなんだと思う。世界平和やジェンダーフリーや地球環境問題を訴えるのがテーマではない。モチベーションという言葉があるように、モチーフというのはあなたの動機だ。あなたのごく個人的な思いでいいのだ。それを誰かに手渡せるのが、小説というメディア(媒介するもの)なんだと思う。
この項終わり
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