日常のこと

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日常のこと

 なんと言っていいかわからないので、彼女のことを人に話すときは漠然とツレと呼んでいる。たぶん正確ではない。肉体関係のある友人ぐらいのものだ。  ツレはメンタルを病んでいる。ときどき、パニック発作を起こしたりする。 今はつらい時期で、ほとんど仕事ができていない。  写真などないが、はっきりと思い出せる。二十代の彼女は、本当に美しかった。それから何年も経っているのだが、先日会ったときは見る影もなくやつれていた。「大丈夫か」と訊いたら「全然大丈夫じゃないよ」と笑って答えた。そういう女だ。  ツレはほとんど弱音を吐かないし、好きだとか愛してるだとか言ったこともない。そのツレが、もっと会いに来てほしい、もっと連絡が欲しいと、初めて甘えるようなことを言った。  なんとかしてやりたいと思う。だが、たとえそんな金があったとしても、「養ってやるから俺のところに来い」などと言われて喜ぶ女ではない。彼女はそんな生き方を望んでいない。  その夜別れたあと、神社に行ってしばらく手を合わせた。  こんなときばかり祈りにくるような輩の祈りに、神様は耳を傾けたりはしないのだろうが、しばらくそうしていた。  彼女と彼女の犬に、はやく安らかな日々が訪れますように。自分の人生と引き換えでもいいから、と、そういうときばかりは真剣に願う。                                             この項終わり  
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