14人が本棚に入れています
本棚に追加
日常のこと
なんと言っていいかわからないので、彼女のことを人に話すときは漠然とツレと呼んでいる。たぶん正確ではない。肉体関係のある友人ぐらいのものだ。
ツレはメンタルを病んでいる。ときどき、パニック発作を起こしたりする。
今はつらい時期で、ほとんど仕事ができていない。
写真などないが、はっきりと思い出せる。二十代の彼女は、本当に美しかった。それから何年も経っているのだが、先日会ったときは見る影もなくやつれていた。「大丈夫か」と訊いたら「全然大丈夫じゃないよ」と笑って答えた。そういう女だ。
ツレはほとんど弱音を吐かないし、好きだとか愛してるだとか言ったこともない。そのツレが、もっと会いに来てほしい、もっと連絡が欲しいと、初めて甘えるようなことを言った。
なんとかしてやりたいと思う。だが、たとえそんな金があったとしても、「養ってやるから俺のところに来い」などと言われて喜ぶ女ではない。彼女はそんな生き方を望んでいない。
その夜別れたあと、神社に行ってしばらく手を合わせた。
こんなときばかり祈りにくるような輩の祈りに、神様は耳を傾けたりはしないのだろうが、しばらくそうしていた。
彼女と彼女の犬に、はやく安らかな日々が訪れますように。自分の人生と引き換えでもいいから、と、そういうときばかりは真剣に願う。
この項終わり
最初のコメントを投稿しよう!