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歩は自室を出て、下の階に行く階段を降りる。
その足取りは重く、床に面する足の裏からは重力がより過重に掛かっている気させ感じられる。 だが、自然と一階にあるリビングに吸い込まれるかの様に足がそちらへと向かっている。
階段を降り、廊下とリビングを隔てる扉を開ける。 そこに飛び込んで来た光景を目の当たりした歩は、ただただ立ち尽くし茫然としていた。
「や、やめてくれ……」
歩が必死に絞り出した声は、目の前で金属バットを大きく振りかぶり、振り落としてを連続して繰り返し、殴打している音にかき消され、実の"兄"である駆には届いていない。
歩の目に飛び込んで来た光景は凄惨を極めた。
兄の駆は、歩が傍らで見ているが脇目を振らずに金属バットを振り落としている為に気付いていない。 バットを振り落とす度に、リビング中に鈍いが音が響き、フローリングには水溜まりのように"血溜まり"が出来ていた。
「父さん……!! 母さんー…」
何故かリビングに来た当初は、駆にバットで殴打されている人物の顔は視認が出来なかったが、今ははっきりと解る。 駆に殴打され、血溜まりを作り、床に倒れているのは、実の両親である、"父親と母親"であると。
その事実が分かった歩は、その場で床にへたり込む。 狂気顔に満ちた駆を止めに入る勇気なく、嗚咽する事しか出来なかった。
「「………。」」
父親と母親からの反応はなく、ただただ鈍い音だけが部屋に響き、やがて音は止んだ。
駆の荒い息遣いとバットが床に着いた音がすると、歩は惨事が終わったのかと確認しようと目から流れる水分を手で拭い、顔を上げた。
顔を上げると、すぐ目の前には駆が立ちはだかっていて、金属バットを歩に目掛け大きく振りかぶっていた。
それを目の当たりにした歩は、バットが振り落される瞬間はスローモーションに感じたが、諦めるように目を閉じ、金属バットが歩の頭蓋骨に当たり、ホームランを彷彿させる音を奏でる前に歩は記憶を飛ばした。
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