箱庭星

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箱庭星(はこにわぼし)で自分だけの世界をつくろう!」  リビングに浮かぶ映像から、広告が流れてくる。  いつからだろうか。  気づいたころには私のオモチャとして、この箱庭星が与えられていた。  ……やっぱり、知的生命体をいれなきゃよかったかな。  最近、私の箱庭星の汚れが酷い。  あんな汚ない世界をつくるつもりではなかったのに。あの生物が勝手に……。  ……そうだ! あの生物を少なくしてみよう! 「ちょっと、今からご飯よ?」 「5分だけ!」  リビングを飛び出た私にママが声をあげてきた。  ご飯の時間なのはわかっている。おいしい匂いがリビングに漂っていて、私も早く食べたい。  けど、今にも滅亡しそうな私の世界を今すぐ変えたい。  ……あと5分で変えなくちゃ! 「でも、なにをしよう? 全て消してしまうのはつまらないし……」  考えながら私の部屋を見渡す。部屋には趣味で集めた魚や虫のケースがところ狭しと置かれている。  ……あ、そうだ!  いいことを思いついて、水槽に手を伸ばす。 「まずはこれを投入してみよう」  イソギンチャクをつかんで、転送ボックスに投げ込んだ。  狂暴化設定をし、転送ボタンを押した。  どうなるのかと期待して、部屋に浮かんでいる箱庭星の映像を見てみる。  ……このイソギンチャクの大きさは、あの生物の二倍くらいだから、ちょっとこらしめるのにはいいかもね。 「え、な、なんで?」  箱庭星に近づいたイソギンチャクは、その星の上空で知的生命体と思われる生物に倒された。 「そんなら、どんどんやってやる!」  水槽に入っていたもの――貝や石や水草やイソギンチャク三つや小さい魚をたくさんいれてやった。  全部倒された……。 「もう!」  私は水槽のものを片っ端から入れていく。タコやイカや大きい魚やクラゲや……。 「もう5分経つぞー。ご飯食べ……お、おい、なにしてるんだ!」 「5分以内で私の箱庭星を汚す生物を消すんだい!」  パパが部屋に入ってきたけど、私は手を休めずに手当たり次第に転送ボックスに投げこんでいく。  もう水槽は空になり、虫かごに手をつけている。 「だから知的生命体を箱庭星に入れてはだめだとパパは言ったんだよ」 「うーん。入れたらおもしろいと思ったんだけどな」  虫も投入しつくした私は、ふてくされながら残ったサナギを投げた。  サナギも倒された……。 「もういっそのこと、知的生命体の元を購入したときに付属してた知的生命体コロリを使ったらどうだ?」 「えー。全部いなくなったらつまらないじゃん」 「もう荒らされたくないんだろ? 仕方ないだろ」 「うん……」  私はしぶしぶ知的生命体コロリを転送した。  効果はあったようで、憎い生物がどんどん消えていく。  憎いけれども、なんだか寂しい。  ……ああ、残念だな。  そう思ったとき、ぴたりと消えるのが止まった。 「なんだ、全滅しないんじゃん」 「この箱庭星の知的生命体の生命力と知能力がすごいのかもな。今度、もっと強力なコロリを買ってこようか?」 「うんん。ちょっと減って、ちょっと星がキレイになったみたいだから、これでいいよ。  あー。お腹すいたー!」  私はリビングへと駆け出した。箱庭星(自分の世界)を少しだけキレイにつくりなおせたことに満足して。  箱庭星を操るこの生命体は地球の人間と時の刻みが違う。人間の長い歴史はこの生命体にとって一瞬なのである。  襲撃してきた未知の巨大生物をヒーローが何十年も倒し続け、やがて襲う未知の感染症を化学で乗り越え、人間は生き延びたのだった。
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