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無理してないか?
「よく遊んだよね、ここで」
俺と姫花は幼い頃から一緒だった。家が近所というのもあるが、母親同士が同級生ということが大きな要因だろう。
姫花は鬼ごっこやかくれんぼなどの遊びを好んだ。転んでひざをすりむいてもお構いなしで走り回っている、元気な女の子だった。
「ねぇ、写真ないの?」
「あるけど」
「見たいな〜」
「おまえも持ってるだろ」
「携帯忘れちゃった」
「まったく……」
胸ポケットから携帯を取り出す。仕事の電話やメールに気付けるよう、胸ポケットに入れていた。ズボンだと気づかないことが多い。
「ほれ」
顔認証でロックを解除し、写真フォルダをスクロールする。俺と姫花が小学生の時の写真を見せた。
男の子っぽい服装をしていた姫花は、あちこちにばんそうこうを貼っていた。俺よりも男の子だ。口に出したら怒られるだろうけど。
「わぁ~懐かしい。光祐変な顔~」
「うっせ」
たしかこの日は、ずっと頭が痛かったのだ。バレてしまえば遊ぶことを中断されるので我慢していたが途中で母親にばれて、結局解散した。
「懐かしいね」
「もういいだろ」
姫花から携帯を取り上げ、そのまま電源を切って胸ポケットにしまった。「あーまだ見たい!」と不満を漏らしていたが、無視した。
「あれからずいぶん経ったね」
「ずいぶんと歳を取ったな、おばさん」
「失礼な、光祐はおじさんでもあたしはぴちぴちの27歳だもん」
「四捨五入」
「うるさい」
ポンっと頭を叩かれた。まだ反対の手は透けていなかった。透けているほうの手はどうなっているんだろう。やっぱり触れられないのだろうか。
「公園、寂しいね」
姫花があたりを見回しながらつぶやいた。俺たちのときはみんな公園で遊んでいたのに、今は子供一人いなかった。
「無理してないか?」
「え? 全然だよ~」
手を顔の前で振っていた。間があいて、なんだかおかしくなって「ははは」と二人で笑ったのだが、正直俺は泣きそうだった。しかし、消える本人が泣いていない。ましてや男の俺が先に泣くなんてありえない。
一度だけ、姫花に泣くなって怒られたことがあった。
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