ないない

1/1
18人が本棚に入れています
本棚に追加
/7ページ

ないない

 中学校のとき、俺は男子バスケ部、姫花は女子バスケ部に入っていた。大体体育館を半分ずつわけて使っており、緑色のネットで仕切られていた。  終わる時間も大体同じで、一緒に帰ることが多く、付き合っているのかと冷やかされていた。姫花は「ないない」と軽くあしらっていた。  3年の中体連で俺たちは負けていた。52対53で残り時間12秒。こちら側がボールを所有している。じっくりと攻める場面だったのかもしれない。しかし俺のマークが外れチャンスだと思った。  指先の感覚はバッチリだった。なのに、ボンっとリングを跳ね返り、終了のブザーが鳴った。  やってしまったと思った。俺がチームを負けさせてしまった。思い出すのは失敗したあの時のことだけ。もしパスを出していれば、もっと冷静になっていればと過ぎたことばかりが頭の中でぐるぐるしていた。  チームメイトは俺を責めなかった。しかし、悔しがる声や控室の物に当たる姿は間接的に責められているのだと思った。  一人、男子トイレの個室で泣いた。あの時こうしていれば、ああしていればともしものことばかり口からこぼれた。  すると外からバタバタと足音がして俺が入っているドアをガンガンと、明らかに蹴っている音がした。 「光祐! いるんでしょ出てこい!」  姫花の声だった。俺は袖で涙を拭い、ひと呼吸してからドアのカギを開けた。すると勢いよく開けられ、胸ぐらをつかまれた。 「泣くな! 光祐は泣くためにシュートを打ったの? 違うでしょ、チームを勝たせたくてシュートを打ったんでしょ! ならそれでいいじゃん! 胸を張れ! 後悔してめそめそするなこのバカ!」  目に一杯の涙を浮かべ、少し鼻声で乱暴に言われた。姫花は言い終わると必死に下唇を噛んでいた。 「……おまえが泣くなよ」  姫花の涙は耐えきれず、こぼれていた。嬉しい反面、自分が恥ずかしかった。  それから俺は『後悔しないように生きる』ことをモットーにしていた。
/7ページ

最初のコメントを投稿しよう!