行こう!

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行こう!

「少し歩かないか?」 「そうだね」  俺の提案に姫花は賛同してくれる。  いろんな話をした。悲しかった話、辛かった話、嬉しかった話、楽しかった話。そのどれもが大切でかけがえのない物だ。  しかし、もう時間は差し迫っていた。  俺が想いを伝える場所はもう決まっていた。  姫花との思い出の場所である川へと向かう。ここは何かあるたびに俺たちが向かった癒しの場所なのだ。 「よく歩いたよね、ここ」 「そうだな」 「あ、あそこ! ほら、幼稚園バスを待ってた場所!」  彼女は駆け出した。そこは誰かわからない家の、膝くらいの低い塀だった。家との間には石が詰められていて、よくここで座って待っていた。 「懐かしいねー、ここ、足つかなかったのにね」  僕たちはこんなにも大きくなってしまった。見上げていたものを見下ろすようになり、いつしか届かないものに目を背けるようになった。 「……光祐、痩せた?」 「どっかの元社長がいきなりご退職されたから忙しすぎて飯食ってる暇ないのよ」 「誰だ、そんなひどい社長は!」 「ははは」と笑い合う。こんに頻繁に笑ったのは久しぶりかもしれない。 「光祐、かっこよくなったね」  ふいにそんなことを言ってくるのだから姫花はずるい。 「光祐、頑張りなよ、あたしの分まで……ね?」  鼻の奥がツーンとした。このまま消えてしまうなんて嫌だと、そう泣き叫ぶことができればどれだけ楽なのだろう。  すでに姫花の足元まで透けていた。  時間がない。消えてしまったあとで存分に泣けばいい。俺は今度こそ、後悔しないように想いを伝えるのだ。せめて、消えてしまう前に。だから。 「行こう!」  俺は速足で目的地に向かった。まっすぐ前だけを向いて。 「光祐、待ってよ~」  昔のように姫花は俺を追いかけてくれる。俺も姫花を必ず追いかける。そこには絶対的な信頼がある。絶対に変わらない。しかし、変わらない関係が終わりを迎えようとしていた。悲しい。それでも俺はーー。 「光祐!!」
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