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消えるみたい
「あたしね、1時間後に消えるみたいなんだ」
午前11時、ジャングルジムの一番上で姫花はつぶやいていた。空は快晴。太陽をつかみ取ろうとして伸ばした手は薄く透けていて、空が見えた。
「あぁ、聞いた」
三十分前、姫花から電話がかかってきた。12時に消えちゃうから来て、と。徹夜明けで寝ぼけているのかと頬をつねったが痛かった。
仕事を抜け出し、駆けつけた。電話で詳しく聞いてはいた。実際に姫花の姿を見たが未だに信じられない。
「よっと」
姫花がジャングルジムから飛び降りた。「おい!」と声は出たが身体は動かない。姫花は砂埃を立てることなく着地し、俺を見て微笑んでいた。
「座ろっか」
姫花がさした先は木陰の下のベンチがある。促されるまま俺はついて行った。
「さて、何話そうかな」
「もう一度聞かせろ、なんで消えるんだ?」
「あと1時間しかないのにそんなこと話すの? 思い出話しようよ、ね?」
お願いと両手を合わせる。昔から頼む時や断る時は決まって両手を合わせていた。紛れもない、姫花なのだ。
もし本当に消えてしまうのなら、俺は姫花に伝えなければいけないことがある。
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