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サイドストーリー SIDEシュウ
アイと強制的に離された後、シュウたちの身体がたどり着いたのは廃品回収の大地に掘られた深い穴だった。
身体から魂の抜けたシュウは、それを悲しい目で見つめていた。
自分で掘り続けていた穴は棺桶のようだった。
シュウの身体は穴に突き落とされる。
茶色い乾いた土がシュウを優しく受け止めた。
同じ現場で働く穴埋め係の奴隷が無表情に、シュウの上に土を被せていった。
身体中を土に覆われ、やがて何の光も見ることが出来なくなった。
シュウはアイとの出会ってからのことを思い出していた。
『あぁ、どうか人が廃品になる未来がなく、誰もが平等に、心のままに笑える世界をがきますように』
そして
『願わくばもうアイが泣くことのないように。幸せに人として生きていけますように』
そう願った。
それからシュウの意識が落ちていく中、見えた光景があった。
アイがある大地の上に立ち、小さな子どもの手を握って空に浮かぶ月を見上げていた。
そこはたくさんの廃品が埋められた大地で、別の誰かが穴を掘り、灯油がまかれ、炎が燃え盛り、土が被せられていった。
その光景を、小さな子どもが丸い瞳に焼きつけていた。
アイはその子どもを抱きしめ、涙を流した。
後にその子どもは奴隷たちの抵抗として戦いを起こし、奴隷制度と廃品回収法を崩壊させた。
その子どもは英雄として、この国を改革していった。
そんな未来が見えた。
本気で月に行こうと考えて、行った奴らがいる。
不可能と思われていたことを実現したんだ。
大丈夫。いつかきっと、アイはまた心から笑えるようになるだろう。
そう思って、そしてシュウの意識は落ちた。
シュウという人間が消えた。
残されたのは掘られた穴が埋まり、大地とかした廃品たちの眠る場所だけであった。
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