哀しみの聖母

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哀しみの聖母

 ロンドン郊外に広大な敷地を擁するウィズリー(カレッジ)は、英国でも一、二の名声を集める、古い歴史を持つパブリックスクールである。  創立は十五世紀。その優雅な制服は、百年前の国王の葬儀に参列した時の喪服そのままの意匠(デザイン)を引き継いでおり、黒の燕尾服(テイルコート)を翻し大勢の生徒たちが広い構内を闊歩する光景は、壮観の一言だ。  元々は、優秀だが貧しい少年を、王を知識と教養で支える従者として養成する目的で設立されたが、今は王侯貴族の子息の教育機関の側面が強い。もちろん平民の生徒もおり、ウィズリーは学力ですべての序列が決まる実力主義を取っているため、優秀であれば爵位の上下有無など関係ない。貴族の子息に生まれ使用人に囲まれて育った者には、親から離れ従者もおらず、狭い個室で自分で自分の面倒を見なければならない寄宿生活は、勉学以前に厳しい環境と言える。  毛並みの良い優秀な生徒ばかりを集めたウィズリー校でも、特に優れた生徒だけにその資格が与えられるのが『王の学徒』だ。
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