哀しみの聖母

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 『館』での日々を誇りに思うと同時に抑圧を感じていた同寮生にも、ジェイムズ達の娯楽は好評だった。二人の悪戯には罪がなく、意地の悪い上級生や教授の傲慢、伝統をかさにきた虚礼を笑い飛ばす類のものだったため、彼らの活躍を心待ちにする生徒も少なくなかった。自分もその一人だったのだと、卒業の日にこっそり告げて微笑んだのが『哀しみの聖母』、栄光ある『館』の監督生(プリフェクト)を務めたレジナルド・マーシャルだったのだ。  確か、ケイリー伯爵家の末子だったと記憶している。  洗練された立ち居振る舞い、美しい発音と言葉遣い、そして何よりも気品あふれるその言動が、彼が貴族の純粋培養であることを示していた。成績ですべての序列が決まる校内で首席を維持し続け、周囲のやっかみを買うこともなく人望も厚いレジナルドは、実に稀有な存在だったといえる。春の陽だまりのように温かで穏やかな人柄は、 好意を集めるものではあっても悪意を引き出す要因にはなり得なかったのだ。
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