哀しみの聖母

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 弟妹のないレジナルドは、同寮の下級生の面倒もよく見た。新入生が家を恋しがって泣きつく先は何故か決まってレジナルドで、そんな時彼は、幼さの残る下級生の額に慈愛に満ちた口づけをして、部屋に送り届けていた。その場に居合わせた者は、生ける聖母子像のような神々しいまでに心温まる光景に、何とも言えず癒されたものだ。レジナルドが筋骨逞しい強面の持ち主であれば話はまた違ったのだろうが、彼のすっきりと整った容貌は『聖母』として十分に鑑賞に値するものだった。  レジナルドが『館』の監督生に就任した最終学年、五年間の集大成とばかりに悪童二人の悪戯が炸裂した一年間。  当然学校側からの抗議も激しくなる中、望んでも頼んでもいないことだったが、レジナルドは自ら問題児たちの盾となり、悪童二人の企みはことごとく成功を収め、『館』の一年はそれまで欠けていた精彩を一気に取り戻すような活気に満ちたものになった。そしてその結果、『哀しみの聖母』が誕生することになる。
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