哀しみの聖母

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 悪童二人が退屈に倦んだ寮生たちの期待に応え、そのたびに監督生が駆けつけて諌める。その場には、いつもは穏やかな微笑みで見る者を和ませる花の(かんばせ)が憂愁に曇る様を、この目にしかと焼き付けたいという物好きな野次馬が鈴なりだった。やがて誰ともなく影でレジナルドを『哀しみの聖母』と崇めるようになり、ジェイムズはその不毛さに呆れながらも、言い得て妙だと深く納得したものだった。あの幅も奥行きもある人柄に繊細な容貌の組み合わせは、聖母と呼ばれるに相応しい、と。  いつも盾となって学校側の猛烈な抗議を引き受け、反省の色などまったくない悪戯常習犯を庇い続けた監督生。誰に対しても公平誠実で教授陣の信頼も厚く、しかし四角四面の面白味のないただの優等生ではなかった。英国人らしくユーモアをこよなく愛し、そのためなら多少の犠牲は仕方なしと考えていたようだ。  卒業の日、抜けるような青空の下でレジナルドは言ったのだ。「ありがとう」と。 「君達のおかげで、退屈している暇もない学生生活を送れたよ」 「面白いことを言うな、監督生。山のように迷惑を掛けた相手に礼を言われるのは初めてだ」 「おかげで、うるさ方を言いくるめる術を身につけられたからね。この先役に立ちそうな技術だと思わないか?」
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