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(それもこれも、この笑顔がいかんのだ)
間近に見る大変心和むそれを堪能しつつ、宿泊支配人アンソニー・ヒューズはこっそり嘆息する。
レジナルドがフロントクラークだった頃、春の陽光のような彼の微笑みに幻惑されて熱心にザ・ジャロルズに通う客は、両手両足の指の数より多かった。彼らがフロントの前でかち合うと、重厚なホテルの玄関ホールはさながらレジナルドを中心にしたサロンにも見えたものだ。といっても本人は就業中の大義名分のもと、その輪に加わることなく淡々と仕事をこなしていたのだが。
ただ皆が皆、地位も財産もある名家の人間で、洒落も礼儀も心得ており、またレジナルドも控え目だが親しみやすい笑顔で客の心をほぐすことはあっても、職分をわきまえ、あくまでフロントクラークとして彼らに接していたため、表立ったトラブルは一切なかった。
彼らの殆どはロンドンに邸宅を構えていて、暇ができたと言ってはザ・ジャロルズに立ち寄り、フロントでレジナルドを相手にしばらくお喋りを楽しみ、喫茶室で優雅な午後のお茶をゆっくりと満喫し、帰り際にまたフロントに寄って別れの挨拶をして帰っていく。喫茶室の営業成績に、大変貢献してくれたものだった。
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