ザ・ジャロルズ

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「珈琲を一杯飲みたいのだ。食堂(ダイニング)喫茶室(ティールーム)もまだ開いてないと守衛は言うが、門を開き客を招いている以上、このホテルには私に珈琲を飲ませる義務がある!」  つかつかとフロントまで歩み寄ると一気に捲し立てた男の顔に、思わずぱちぱちと瞬きをしてしまう。  一目で育ちの良さが知れる、優雅で鷹揚な歩き方。秀麗な顔立ちは不機嫌さを隠そうともせず、傲慢とは違う、恐れを知らない少年のような天衣無縫にも似た傍若無人さを、仕立てのいいスーツで包んでいる。  あれから十年、少年から青年への過渡期にあった青さや硬さは取れ、格段に男振りは上がっているが、珈琲一杯のために早朝のホテルを叩き起こす突飛な行動様式は驚くほど変わっていない。  どんなに(たち)の悪い酔客も一瞬で黙らせる業務用の微笑を装備することも忘れ、レジナルドは呟いた。 「…ジェイムズ」
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