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朝一番、ジェイムズ・アスター卿は不機嫌だった。
睡眠をこよなく愛すジェイムズは、寝付きも寝起きもすこぶる良い。寝台に入れば五分も経たずに安らかな寝息を立て、愛用の目覚し時計が鳴らない限り雷鳴が轟こうと目を覚ますことはない。
それがどうしたことか、今朝は五時前にぽっかり目が覚めてしまった。
その寝起きの良さゆえに、ジェイムズは体質的に二度寝ができない。真っ暗な中を渋々起き上がり、気分を入れ替えるために珈琲を淹れに台所に立ったところで、大事件は勃発した。
といっても、単に珈琲豆が切れていただけなのだが。
裕福なブラックウェル侯爵家の三男坊という、責任のない気楽で恵まれた立場に生まれながら、ジェイムズは家事の初歩くらいのことは一通りできる。大学卒業後に貿易会社を起こし、あちらの海こちらの大陸と、精力的に世界中を飛び回る主人を支える度量のある従僕はなかなかおらず、結果的に身の回りの世話は自分でこなせるようになった。
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