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ザ・ジャロルズ
その日は、本当なら非番だった。
季節の変わり目の厄介な風邪を引き込んだ早番のナイジェルの熱は下がらず、レジナルド・マーシャルが代役を頼まれたのは昨晩のことだ。
「久しぶりの休みだというのに、すまないな」
「いいんですよ、特に予定もありませんし。ナイジェルにはゆっくり休んで早く復帰してもらわないと」
申し訳なさそうな宿泊支配人に、レジナルドは安心させるように微笑んでみせた。
一九二〇年代後半。二度の大戦に挟まれたつかの間の平和を享受し、大英帝国が爛熟し光り輝いていた時代。
ロンドン市内メイフェア地区、ザ・ジャロルズ。
公爵家の邸宅だった由緒正しい建物を改装し、最新の設備を導入して数年前に開業した、中規模ながらもロンドンで一、二の人気を誇るホテルだ。
創業以来このホテルに勤め、今はフロントマネージャーの地位にあるレジナルドが、フロントに立つことはあまりない。特別な配慮の要る客が宿泊する時は、レジナルドの神業のような接客術が必要不可欠だが、最近ではそういった特殊な場合を除いて裏方の仕事に従事している。
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