仕込み

　当たり前だが数学の問題がまったく解けない。
　初日の文系科目が奇跡的によくできたというのに、このままでは第一志望の国立大学に出願することは難しくなる。
　焦る気持ちとは裏腹に試験時間は刻々と過ぎていった。あと５分、僕は意を決して左手で頭を掻いた。
　その瞬間、後ろの席の方からもの凄い物音が聞こえると同時に耐えられない異臭が教室を包んだ。
　そこにいた受験生のほとんどは何が起こったのか理解できないまま教室はパニックとなった。
　女子高生の悲鳴、席を立つ音、会場は試験どころではなくなった。
　どうやら、一人の受験生が突然床に倒れこみ嘔吐と失禁をしてしまったようだ。その受験生はすぐに試験官に抱えられて教室の外に運び出されたが、床に広がった汚物はそのままで、周囲の受験生はみな自分の席を離れて唖然と立ちつくしていた。
　別の試験官が汚物を片付けようとしたその時、試験終了を告げるチャイムが鳴った。泣いている女子生徒の横で僕は小さく呟いた。
　「追試決定」