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「あと5分で完了しますね」
「そうだな。創るのに膨大な時間がかかったが、消すのはあっという間だ」
とてつもなく大きな筐体と、床全体を蔦のように覆い尽くすケーブルの群れ。それを取り囲むモニターと、コンソール群。
機械の奏でる連続音や、冷却ファンの音。さしてモニター群を行き来するスタッフの往来なみが、極限まで機能性を追求されたこの無機質な研究室に音を与えていた。
「最終試験、最終段階に移行しました。データ全体の消去率86%を超えました。メインコントロールフレームの初期化に入ります」
スタッズの一人が、モニターを見て言う。
「…あの『博士』。よろしかったので?」
「何がだ?」
スタッフの一人がモニターを指し示す。そこには阿鼻叫喚の地獄絵図が映っていた。
「あれを本当に消して」
「ここが閉鎖になる以上、仕方あるまい。仮にデータに関して言っているならば、データは所詮、データだ。シミュレーション上の存在に過ぎん。気を病む必要はない」
『博士』の指摘が図星だったのか、スタッフは顔を顰める。
「確かにそうですが。しかし、アレらは、いえ、あのデータ群は素晴らしいモノだと思います。消すのは勿体ない。あれ程のモノ、間違いなく最高の発明ですよ?あれは間違いなく神の域に到っている」
「元々、私の思い付きで初めたことだ。世界を創ってみたくなったから、全てを開発した。ハードからソフトまで、全部だ。ここが閉鎖される以上、私でケリをつける。…それに連中に私の『世界』を弄くらせてたまるか」
「全てを消す。メインフレームも、当然記憶装置の中身も全部だ。記録もログもデータも全部、何一つ残しはしないぞ」
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