冗談がすぎる

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冗談がすぎる

女装のじゅんと、須田は繁華街をダッシュで走っていた。端から見れば、その光景は、何か事件に巻き込まれたようなカップルだった。 「痛っ。」 じゅんが、ハイヒールで走ったために、足を挫いてしまい、その場に、座りこんでしまった。 「じゅん、大丈夫か?立てる?」 須田は、目の前で、うずくまっているのは、じゅんだが、見た目は超絶好みな女性が、足を痛がる姿にどうしていいか困っていた。 実際、須田は彼女がいた時も、気を利かせた経験が今まで一度もないため、こういう場面も思考が停止してしまう。大抵、女性から告白されるが、最後はいつも、見下り半突き付けられてしまっていた。 須田は、身体を壊すまで、中、高は、ラグビーをやってきた。身長185センチ、がっちりしているが、ゴツゴツはしていない、均等のとれたスタイルをしていた。足も腰から下に長く、どんな、ヨレヨレの服でも、着こなす身体を持っていた。こんな、身体でベビーフェイスだったので、女の子達は、放っておかなかったが、とにかく、自分にも他人にも無頓着で、ラグビーを辞めてからは、勉強とゲーム制作に没頭し、度々、デートをすっぽかしたり、電話に出なかったりは、日常茶飯事だった。 しかし、長年、一緒に会社経営をしているじゅんとは、趣味も話しも、夢も合い、こうして、二人で、北海道に来たのだった。 「じゅん、時間ないから、ちょっと、わり~。」 そう言うやいなや、すっと、須田がじゅんを抱きかかえた。 「ばっ!ばか!降ろせ!」 普段、須田以外の人には、可愛こぶりっこのじゅんが罵声をあげた。 「静かにしてろ。」 そう言うと、暴れるじゅんを押さえ込み、そのまま、会社へ到着したのだった。 時計は11時を指していた。。。本アップまで、一時間しかない。 じゅんは、着くなり、PCを立ち上げ、エラーを起こしてるプログラム部分を解析し始めた。 須田は、じゅんが来たことに、ほっとした。「もう、大丈夫だと思う。」今までも、数多くのトラブルがあったが、じゅんが解決できなかったものはなかった。もし、須田の中で、じゅんを例えるなら、この道の天才という表現が似つかわしかった。 須田は、じゅんの横に座り、後ろから画面を覗き込んでいた。 後ろから見るじゅんは、さらさらの髪の毛をいつのまにか、一本にまとめていた。そのため、白いうなじが須田の視線を止めた。さっき、抱き上げた時も、男にしては、華奢で、すぐに壊れてしまいそうだった。 「こいつ、何で、女装なんかしてるんだろう?」須田は、何とも形容し難い、モヤモヤした気持ちになっていた。「こんな、格好してると。。。」 須田は、昔から、性行為に関しても、無頓着というか、やってもいいし、やらなくてもいい感じだった。ただ、疲労感があると精力が増すという傾向があった。 今、疲れた須田の目の前に、めちゃくちゃタイプの女性が居る。。。この距離にあっても、じゅんから、魅了するような、良い香りがした。 「終わった!!!アップ、完了!!!」 じゅんが、手を高くあげ、ガッポーズをし、 今にも、じゅんを抱きしめてしまいそうな状態に陥っていた須田の目を覚ました。 「もう、大丈夫だよ。」 超絶に可愛い笑顔で、じゅんが振り向き、その先には、顔を真っ赤にした須田が居た。 「あっ、おつかれ。。。本当に。。。」 「良太、顔、赤いぞ。」 じゅんが、近すぎる距離で、心配そうに覗き込んできた。 「大丈夫。」 目を反らしながら、須田は、言葉を返した。 「それより、お前、最近はどう?傷心のキズは癒えたの?」 須田は、状況を変えたく、じゅんの失恋話に話題を変えた。 一年前、須田は真剣に付き合い始めた男が居るとじゅんから聞いた。あの頃のじゅんは、毎日が嬉しそうで、須田には見せたことのない柔らかい表情をしていた。 その後、失恋したことを仕事帰りに、一緒に寄ったBarレインボーで知り、ひどい別れ方をして、反省していたじゅんを励まし、相談を受けた過去があった。 「まぁ、まだ、癒えたとは言えないかな。一人になってみて、分かったけど、一人ってさみしい。今は、運命の相手を探し中ってとこかな。別れた彼との経験で、人を本気で好きになるのまんざらでもないなって思えたし。」 少し照れながらも、真っ直ぐ、須田を見て、じゅんが答えた。 「こいつ、変わったな。俺も、真剣に誰かを好きになったら、変わるのかな。。。」と 須田は心の中で、羨ましく思えた。 なんで、いきなりそんなこと、思い始めたのだろうか。。。今まで、一度もそんなこと考えるような須田ではなかった。「変わりたいなんて、一度も思ったことがない。しかも、誰かのためなんて。めんどくせぇ。」が、今までの自分。 ドタイプの女装じゅんを前にして、今までなかった発想が芽生え、須田は頭を抱えたい気分になっていた。
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