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再び
羽田から飛行機が、予定より四時間遅れで、北海道へと飛び立ち、須田が駅前に着いたのは、夜の11時過ぎだった。
レストランに電話しようと考えてはみたものの、肝心の店名がでてこないため、じゅんに連絡がとれずにいた。
駅に到着後、雪が邪魔して、なかなか、思うように、足は進まなかったが、そのまま直ぐに、市街地のレストランへと向かった。父親に殴られた痕のキズは、まだ、かなり痛んだ。
あの大喧嘩の後、一切、父親とは顔を合わすことはなかった。完全に、縁を切るつもりで、実家を後にしたのだった。「俺は、俺の選んだ道を生きる。」
街は、全く、人影がなく、タクシーすら、停車場には止まって居なかった。街灯の一線の光が、チラチラ舞う粉雪を照らし出していた。
ザクザク
地面を踏み込む度に、靴に雪が入ってくる。
「つめてぇ」
須田は、東京から薄着で帰って来てしまったため、北の容赦ない寒さに、身体が固まってしまった。
ザクザク
「。。。良太。。。」
じゅんの声が聞こえた様な気がして、顔を上げると、吹雪く雪の中に立ち尽くすじゅんが、居た。
「じゅん。。。」
須田を見るじゅんの顔が、みるみると蒼白になる。殴られた痕、それを隠すような絆創膏、東京で、何があったか、その姿をみれば、一目瞭然だった。
「じゅん、レストラン間に合わなくて、ごめん!お父さん達にも、本当に申し訳ない。。。それから、俺、携帯電話をこっちに忘れちゃったみたいで、正月中、連絡できず、それも、本当にごめん!心配だったよな?」
「そんなことより。。。顔。。。ひどい。。」
じゅんは、須田の傷だらけの顔を見て、電話のことは、全く、問題ではなくなってしまっていた。
「あっ、これ、親父と喧嘩しちゃってさ。あいつ、年寄りのくせして、めっちゃ、強ええの。」
「僕達のこと、話したの?」
「親父には、俺が、お前を愛してるって、伝えたよ。そしたら、あいつ、古い人間だから、理解できないみたいでさ。今は、昭和じゃね~つんだよな。」
「良太。。。」
「じゅん、なんて、顔してんだよ!俺の心配してるの?!それなら、必要ないって!俺、後悔なんて全く、してないしさ、これは、じゅんがどうこうじゃなくて、俺と親父の関係の問題なんだって。だから、そんな、情けない顔すんなって!」
「けど、僕が居なければ、こんなにならなかったよね。。。ごめん。。。」
じゅんは、寒さでかじかんだ両手で、須田の顔を震えながら、包んだ。
須田の手が、じゅんの手に重なり、二人の眼差しは、熱く交差した。
「じゅん。そんな顔、すんなって。。」
「良太。。。」
じゅんは、涙を流しながら、小さく溜め息をついた。
「良太、もう、充分だよ。僕、充分、幸せだった。だからさ、友人だった頃に、戻らない?今なら、遅くないよ。暫く、時間置いたら、お父さんと、もう一度、話をしてよ。よく、考え直したら、俺がバカだったって、伝えてよ。。」
「じゅん、なんで、そんなこと言えんだよ。。俺がどんな想いで、家族に俺の気持ち伝えたか、それは、どうでもいいわけ?!俺の決心は、どうなるんだよ?!俺、そんな言葉、聞きたくて、じゅんのところに戻って来たんじゃねえよ。。。」
冷たい雪が、落ちては、溶けて、消えていく。。。
ずっと、背いては、生きられない。
巡り会ったことに感謝して、
また、さよならから、始めればいいね。
君を忘れないように、
思い出を箱に詰めこむよ。
きっと、君が幸せでありますように。
きっと、僕も幸せになるから。
「じゅん、俺、そんなに、頼りねぇかな。。」
どこかの誰かの恋の歌が、頭の中で、リフレインしていた。
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