54人が本棚に入れています
本棚に追加
新しい世界
二人は、格式高い門構えのジュエリーショップの前まで来ていた。
須田は、大きく、深呼吸すると、じゅんの手を離さないように、しっかりと握り、店内に入って行った。「今日は、俺もじゅんも、スーツだから、そんなに、場違いでもないだろう。。。」
「いらっしゃいませ。」
店員が、ショップに入って来た、顔面傷だらけの須田を見て、一瞬、たじろいだ様子だったが、平静を取り戻し、丁寧に礼をした。
「本日は、何か、お探しでらっしゃいますか?」
「この指に合う指環を、探しています。」
須田は、そう言うと、じゅんの手を引っ張り、その白くて長い、華奢な指を見せた。
「え?良太。どういうこと?!何?!」
ショーウィンドケースにびったりと、手を押さえつけられ、じゅんは、この状況に頭が追いつかずに居た。
「こちらなんて、いかがでしょうか?」
店員が繊細なデザインが施されたプラチナのリングをショーケースから取り出した。
「お客様のお指に似合う、細身のデザインになっております。」
「それ、指に合わせてみて、サイズ合えば、下さい。」
「え?ちょっと待って!これ、凄い値段するよ。。。」
じゅんの目は、店員と値段と須田の顔を交互に見ていた。
須田は、値段など、全く、気にしてない様子で、ショーウィンドの指環をじっくりと眺めていた。
「やっぱり、その指環、じゅんに凄く似合ってるね。」
そう言うと、須田は、指環のついた、じゅんの手を優しく、持ち上げた。
「すみません。これ、エンゲージリングとして欲しくて、同じデザインので、号数二つくらい大きいのが、もう一つ、欲しいんですが、ありますか?」
「かしこまりました。お相手の女性の方は、お客様より、大きめのサイズをご希望とのことですね。」
「いや、女性じゃなくて、僕のサイズです。」
ショーケースの上に、二人の左手が並ぶと、店員は、一瞬、戸惑いを隠せない様子だったが、快く、須田のサイズを計り、ぴったりの指環を出してくれた。
「これ、ぴったりじゃん。」
「良太。。。」
じゅんは、エンゲージリングを購入するために、この場所に連れてこられたことが分かると、嬉しいやら、恥ずかしやら、申し訳ないやらで、身体が行き場所を失っていた。
「この二つ、下さい。」
「イニシャルなどは、どうされますか?また、後日、お越し頂いた時でもお刻みすることはできます。」
「後日、二人で、改めて来ます。」
須田は、かなり、高いであろう、白銀の指環をその場で、ペアで購入した。
二つの小さな箱に、エンゲージリングが納められると、須田は、半ば、強引にじゅんを連れ、店を出た。
「ちょ、良太、どういうこと?エンゲージリングって何だよ?あと、いい加減、僕の手を放してくれる?痛いって。」
須田は、それでも、じゅんを離さず、しっかり、捕まえていた。
「だめ。お前、すぐに、逃げるから。」
「。。。」
「もう、絶対に離さないって、俺、決めたから。」
男同士、手を繋いで歩く姿は、街行く人達の人目を引いたが、須田は、気にも止めずに歩き続けた。
都市のシンボルであるテレビ塔が見える、大公園の噴水前に、二人は着いた。
まだ、吐く息が白い、一月の北海道は、降り積もった雪を残し、太陽の光を反射させると、辺りをキラキラと耀かせていた。
須田は、持っていたショップの袋から、先程の箱を取り出すと、リボンをほどき、中から指環を出し、じゅんを見つめた。
「じゅん、これからも、変わらずに、ずっと、俺の側に居て下さい。」
じゅんの指には、プラチナのエンゲージリングがスッとはめられた。
じゅんは、言葉が出ずに、ただ、頬に温かい涙だけが蔦って、流れ落ちた。
「はい。」
じゅんは、返事をすると、自分も、箱から、もう一つの指環を取り出し、須田に向き合った。
「良太。命、有る限り、僕とずっと一緒に居て下さい。」
須田は、じゅんの言葉を神妙に聞いていたのだが、いきなり、首を横に振りだした。
「違う。違う。」
「何だよ。何が違うんだよ!」
じゅんが不満げに、唇を尖らせた。
「いつか、命に終わりがきたとしても、来世でも、俺は、じゅんを見つけて、そのまた、来世でも、そのまたまた、来世でも、そのまたまたまた」
「何度、生まれ変わっても、また、出逢い続ける。」
初めて、じゅんを見つけた時の、あの時が、須田の中でプレイバックする。
「新入生に女みたいな奴がいる。」
冷やかし半分の声が聞こえる。
夕暮れ時のオレンジに染まった部室。
「俺は、綺麗だと思ったよ。」
遠い記憶を片隅に、須田は、じゅんの手を取り、指環に口づけをした。
周りを気にして、うつむき、恥ずかしそうにする、じゅんを抱き締めると、須田は、耳元で囁いた。
「じゅん、今すぐ、抱きたい。。。」
須田の傷だらけの顔は、男臭く、やけに、セクシーで、じゅんの身体を熱くした。。。
最初のコメントを投稿しよう!