そして

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そして

生来と菅野は、友人達を迎えるべく、朝から、準備をしていた。縁側の窓は開かれ、客人用の布団が、干されていた。 八月の神奈川は、朝から茹だるような暑さで、目の前に広がる海には、泳ぎを楽しむ人達の姿が見えた。 「あちぃ」 生来が、布団を並べ終わり、扇風機の前に、ドカっと腰を下ろした。 「生来の実家が近くて良かったよ。男四人も来るのに、布団が足りなくて、借りれて助かった。」 菅野は、研究資料を片付け終わると、台所から、麦茶を持って、汗を流す生来に渡した。 「先生、ありがとう。」 生来の家は、昔から、三代続く地元の産婦人科で、生来と菅野の家から、目と鼻の先にあった。 生来は、大学卒業後、神奈川の病院で研修医として、勤め、菅野は、教授の口利きで、東京の国立博物館の研究員として、働いていた。 二人が暮らすこの家は、昭和初期に建てられた、純和風の造りで、リフォームと増築をし、住みやすく改良されていた。 「じゅんくん達は、北海道から直で来て、夕方頃には着くみたい。ジェームス達は、滞在先の京都を午前中には出発しているから、そろそろ着く頃じゃないかな?」 「ここの場所は、分かるの?」 「今、皆、マップのアプリ使って、目的地まで来るのが、主流みたい。俺は、そういうの分かんないけど。」 夏の太陽が、波に誘われ、光を散りばめ、海はキラキラと輝いていた。 お昼近くになり、エアコンをきかせた和室の居間で、二人、そうめんを食べていると、玄関のブザーが鳴った。 「は~い!」 生来が立ち上がって、玄関へ向かった。 ガラガラガラ 「大!久しぶり!!」 引き戸を開けると、カラフルな大きなバックパックを背負ったジェームスと、その傍らには、目鼻立ちのはっきりとした、セクシーな唇が印象的な、ハーフの男性が居た。 「ジェームス!久しぶり!」 「オー、イェーイ!大、会いたかったよ!」 ジェームスと生来は、熱いハグを交わした。 「そう、大、紹介するね!こちらは、マイ、スウィート ハニーのマイク!」 そう言うと、ジェームスは、マイクの肩を抱き寄せた。 「ハイ!よろしくお願いします。」 「マイクのパパは、アフリカンアメリカンで、ママは日本人だから、日本語はオーケーだよ!」 そう言うと、ジェームスは、マイクの頬にキスをし、ただでさえ、暑い気温が、それにより更にぐんと上がった気がした。 「ようこそ!」 お昼を片付け終わった菅野が、玄関先に出て来て、二人のバックパッカーを部屋に招いた。 「さぁ、中に入って、入って。」 「カンノさん!久しぶり!相変わらずのセクシーガイで、大は、幸せ者だね!まぁ、僕もソー ハッピーだけどね。」 ジェームスが隣のマイクに言うと、マイクはウィンクで答えた。 「。。。ジェームス、まず、中に入ろう。。。」 あまりにも、ラブラブな二人を見かね、生来が 家に入るように促した。 何年ぶりかに会うジェームスは、以前にも増して、明るく、パートナーのマイクも彼の隣で、よく笑っていた。 二人を見ていると、波長や、育ってきた環境が似ているのか、非常にリラックスした様子で、英語と日本語を織り交ぜながら、会話が弾んでいた。 「二人の出会いを聞かせてよ。」 生来が、ジェームス達の手土産の八つ橋と、冷たい緑茶を出した。 「私は、出張で、ニューヨークから、ワシントンに来ていて、ジェームスは、カリフォルニアからD.C.に来ていました。」 マイクが、流暢な日本語で、一生懸命、話し始め、隣で、頷きながらジェームスは、相槌をうっていた。 「そして、滞在先のホテルのミスで、何故か、私達、二人の名前で一部屋の予約になっていて。。。」 「そう。それで、仕方なく、見知らぬ者同士で、一夜を過ごして。なんと、帰る時も、たまたま、立ち寄った空港のPubで、偶然に再会したんだ。時間もかなり、あったから、一緒に食事をしたんだよね。」 「イエス!」 ジェームスと、マイクは、始終、嬉しそうに話していた。 「随分と、運命的だね。」 「本当に。」 菅野と生来が、顔を見合わせて、頷いた。 その後も、久々に再会した友人達の話は尽きず、気がつけば、地平線の向こうに、真っ赤な太陽が沈みつつ、あった。 「じゅんくんと、須田さん、もうそろそろ、着くかな?」 生来が、携帯電話をちらりと確認した。 ジェームスは、じゅん達が事前にこっちに来ることを聞いてはいたが、いよいよ、再会の時が来ると思うと、緊張が走った。「じゅんにどんな顔をして会ったらいいんだろう。。。」 ブー ブー ブザーが鳴り、菅野と生来が立ち上がって、玄関に出向いた。「来たかも。」 ガラガラガラ 「賢治さん!大!お夕食、沢山作って持ってきたわよ。皆さんで、食べて!」  両手に持てる限りの料理を持って、生来の母親が現れた。 「母さんか。。」 「賢治さん、このお鍋に好物のハッシュドビーフ入れてあるから。食べてね。」 「いつも、ありがとうございます。」 菅野が生来に変わって、差し入れを受け取ろうとした瞬間、母親の後ろから、笑顔のじゅんと須田がひょっこりと現れた。 「久しぶり!ここに来る途中、ちょうど、お母さんに声かけてもらって、たどり着けたよ。」 「こっち、夕方なのに、まだ、暑いのな。」 じゅんも、須田も変わらない様子で、あの夏が昨日のように感じた。 「入って。入って。ジェームスとボーイフレンドのマイクも、中に居るから。」 じゅんは、大きく深呼吸を一つし、須田は、そんな彼の背中を優しく、ポンと叩いた。 じゅんが玄関を上がると、入って直ぐの居間には、ジェームスとボーイフレンドがすでに、到着していて、ジェームスの姿は、あの頃とほぼ、変わっていなかった。 優しくて、明るい、情熱的なジェームス。 「じゅん。幸せにする。じゅんの夢を全て叶えてあげるから。」 自分なんかのために、そう言ってくれたジェームスの言葉が遠くで、懐かしい響きを持ち、聞こえた気がした。 「じゅん。。。。」 ジェームスは、一瞬、じゅんの姿に言葉を失ったが、はにかみながら、彼の側に行くと、強く抱きしめた。 「ジェームス。」 じゅんの腕も、しっかり、ジェームスを包み返した。 恋愛とは違う、熱い感情が二人の間を流れた。。。 じゅんは、ジェームスからそっと、身体を離し、ふっと辺りを見渡す。 隣には、愛しい須田、側には、暖かい眼差しの生来と菅野。目の前には、ボーイフレンドに抱かれたジェームスの幸せそうな姿。「愛しい人達」 玄関からは、生来の母親が作った、温かな料理が良い匂いを漂わせていた。 本当の自分を見つける旅の中で、いろんな出会いがあった。 傷つけたり、傷つけられたり、揺れながら、もがく君と目が合って、僕は本当の自分を見つけたよ。 自分が選んだ道は、新しい世界へ続くから。 僕は、君を知って、君は、僕を知って、一つになった。 じゅんは、長かった、ここまでの心の旅を思い出すと、柔らか微笑みを浮かべ、須田の手を握り締めた。 「来て良かった。。。ありがとう。」 過ぎ行く季節の中で、出会いと別れを繰り返し、僕らは、また、巡り会える。 きっと、交差する世界で。 Fin.
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