60人が本棚に入れています
本棚に追加
梅雨が明けた頃、朝早く大学に向かった日。
ぶーにゃんと戯れているハルを見て。
驚かせないように、だけどここにいるよ、と少しずつ彼女の視界に入る。
僕に気づくと彼女は左手でぶーにゃんを撫でながら、右手で僕に手招きをする。
僕がぶーにゃんのことが苦手なのを彼女には話したことがあったから絶対無理だと断るのに。
今日は大丈夫、私がついているから、とでも言わんばかりの笑みを零して早く早くと急かされた。
渋々その手招きに乗せられて近寄ると、案の定僕の存在に気づいたぶーにゃんはハッとしたように。
シャアァツと牙を剥きだして、僕に「来るな!」と威嚇している。
ハルはそんな僕とぶーにゃんの様子を見て泣き笑いしてた。
案外と彼女は笑い上戸でこうなるとしばらくはこの調子だ。
ちょっとムッとしながら僕は腕時計を見せた。
時刻は8時50分。
アッ! と慌てた彼女は仕事場に走りだしてからすぐに立ち止まり、もう一度僕の方を振り返ってスマホを出した。
――彼方くん、お昼ご飯一緒にしない?
届いたそれにすぐさま頭の上で大きな丸を作ってみせたら、笑顔が帰ってきて。
それからまた走っていくその華奢な背中に僕は手を振り見送る。
お昼、どこに行こうかな。
ハルはお昼も外に出てばかりで構内の食堂は利用したことがないって言ってたから。
一度は連れてってあげたいな。
待ち合わせ場所と時間を伝えたSNSの返事はなかったけれど。
待ち合わせ時間6分前に走って現れた彼女の嬉しそうな顔。
今、12時4分だよ? 休憩は12時からだろうに。
ニコニコとオレに手を振り駆け寄ってきたその姿が僕の知っているハルの中では一番可愛かったかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!