君と僕の物語

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 券売機の列に並ぶとハルはキョロキョロとカウンターの上に並ぶメニューの写真を見上げてる。 ――ここね、ラーメンが美味しいんだよ。 ――彼方くんはラーメン? ――僕はチャーハンにしようかな。 ――どうしよう、チャーハンもいいな、ああでもラーメンも食べたい ――だったら僕のを一口あげるよ。 ――やった! じゃあラーメンにしよう!  周りには図書館と違ってザワザワとした学生たちの声や。  ピンポーンと出来上がった順番を知らせる音。  食堂のおばちゃんたちの大きな声の掛け合いや。  TVから流れるニュースの音。  だけど目の前にいるハルはそういったものを一切遮断するようにして耳から補聴器を外した。  補聴器をすればまだほんの少しだけ聞こえるという右耳。  ただ人の多い場所での小さく聞こえるざわざわはすごく嫌な感じなので、こういった場所では補聴器を外すのだという。  左耳は既に聴力を失ってしまったらしい。  3歳ごろまでは普通に聴こえていたらしいけれど、所謂(いわゆる)おたふく風邪からのムンプス難聴というものを発症してしまったのだという。  その話を聞いていた時にハルが、  両耳っていうのがアンラッキーだよね、  と笑っていたことに驚いた。  だけど本当はきっとその笑顔はハルの優しさだと思う。  ご両親はハルの耳が聴こえなくなったと知った時泣いていたそうだ。  だからハルは笑ったんだと思う。  今もそう、周りの人間に気を遣わせないようにと。  ざわめきの中、一人だけ静かな中にいるハルに流れた時間は。  オレの時間よりももしかしたら長かったんじゃないだろうか、と。  ふうふうとラーメンを啜っては。  美味しいね、と何度もホッペを掌でポンポンと叩いて教えてくれる。  その優しい目を細めて笑うハルが愛しくなって抱きしめたくなる瞬間がここのところ何度も訪れて困っている。
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