君と僕の物語

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「結城くん、隣座ってもいいかな?」  トレイを手に近づいてきたのは時々同じ講義で一緒になる、確か、加藤さんだったかな。  最近割と話をする部類の女子。  僕と話をしてくれる女子というのはやっぱりどこか僕と似ていて大人しくて目立たない子。  だけどこんな風に食堂で一緒になったことなんかなくて。  もしかしたら同じ時間帯に利用してたことがあったかもしれないけれど、僕は一人だったり数少ない男友達と一緒だったりで。  丸い三人掛けのテーブル、右隣にいるハルを見たら補聴器を付け直してオレにいいよと微笑むから。 「どうぞ」    と返事を待っている加藤さんに促した。 「今日は混んでるよね、それと私結城くんに聞きたいことがあって」    早口な彼女の口元はきっとハルには伝わっていないだろうし。  何より加藤さんは目の前にいるハルの存在に気付いているのに挨拶もない。  オレと相席するってことはハルとも相席になるというのに。  何となく失礼じゃない? そんな風に思ってしまってハルに目をやると。  思った通り。  どうしていいのか手持無沙汰になってしまったハルは空になったラーメン丼の中を見ていた。 「あのね、結城くん」 「ちょっと待って、加藤さん」  加藤さんの話を遮って、ハルの前のテーブルを指でトントンと叩いてこちらに注意を向けて。  唇とジェスチャーで。 『珈琲飲む?』  そう伝えてみた。  だけどハルはオレと加藤さんの顔を見比べてから微笑んだまま静かに首を横に振ってすぐにスマホを手にした。  ハルに(なら)ってオレもスマホを手にすると届くメッセージ。 ――楽しかったよ、学食! とっても美味しかった! 連れてきてくれてありがとう、彼方くん。私そろそろ仕事に戻るね。  え、だってまだ後20分あるのに? と返事を打とうとしたのに。  オレと加藤さんにペコリと頭を下げて足早に器を下げに歩き出す。 「彼女って司書補さんだよね、結城くん最近仲がいいよね、時々二人でいるの見かけてて」  加藤さんが何か言いかけてたけれど、ハルの後ろ姿が小さくなっても一度もこちらを振り返ってくれないことが気になって。 「……、全然聞いてないよね、さっきから」    ハルのことを考えていた僕の耳に不快な音が不意に響く。  ガタンっと大きな音を立てて椅子を引いた加藤さんはまだ食べ終えてないトレイを持って。  彼女がその前に何を言っていたのかわからないけれど。  見下ろしたその顔は僕に対して怒っていたし歩いて遠く離れた席に座ってからも僕を睨んでいた。  その後講義で一緒になっても二度と僕の隣に座ってくることもなかったから何か彼女に嫌われるようなことをしたのは確かだ。
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