間違えたその先

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そこからはもうみんながみんな好き勝手なことを言い出した。 証拠は? 離婚するのか? 親権は? 相手の女はどんな奴? 貯金は死守しろよ!  当事者であるマリ先輩はその言葉たちに応えることなく新しく届いたビールを煽ってケタケタ笑っている。 今のご時世、離婚なんて珍しい事でもないだろうけど身近なスキャンダルにみんなお祭り状態で、好き勝手なことを言い合いながら酒を煽り続けた。 そんなカオスな状況の中、マリ先輩の向かいの席に座った女性が机を軽く指先で叩いた後に手元から一枚の名刺を取り出して先輩の前に置くのが見えた。 「マリちゃん、私今弁護士事務所で働いてるの。  そういう問題結構中心に取り扱ってるから、本気で考えるなら紹介するよ」 徐々にマリ先輩の笑い声が小さくなっていく。 それを一瞬だけ横目で見て正面の女性へ目を向けると、ニコリと穏やかな笑みを浮かべられた。 小さく頷いてから腰を上げようとすると服の裾が引っ張られる感覚がして、見下ろせば何故かマリ先輩が俺の服の裾を掴んでいるのが見えた。 「先輩? 俺トイレ行きたいんっすけど……」 「あ、あぁ! 悪い悪い! さっさと漏らしてこいー!」 ぱっと手が離れて引きつった笑顔を浮かべる先輩にチクリと胸が痛んだが、気づかないふりをして席を立った。
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