間違えたその先

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それからは以前と同じように、マリ先輩の専用相談役として飲み会に参加するようになった。 前のような感情はもうないけれど、普段から笑顔ばかりの先輩が泣く姿は見たくなかったのと、長年相談役としてマリ先輩の横にいたのが周囲の人には当然の事だと思われていたことが理由で飲み会の席は常にマリ先輩の隣になっていた。 帰り際は「あともう少し、5分だけでも……」というマリ先輩の言葉にNOと言えず、恋人の「気にせずに楽しんできて」という優しさに甘えて先輩を優先し続け朝に帰ることを繰り返していた。 良くないことは理解していたから、朝まで一緒にいたとしてもマリ先輩と二人きりになることは絶対に避けた。 ミイラ取りがミイラになりかねない事態は避けたかったし、そもそも恋愛対象としてマリ先輩を見ることはなかったからだ。 親しい友人、愚痴を聞いてくれる都合の良い後輩というポジションを保つように、よからぬ感情を持たれないように気を配った。 マリ先輩も俺が一線を引いているのには気付いてくれたようで、飲み会の時以外連絡が来ることはなかった。 俺とマリ先輩の関係は「みんなが集まる飲み会の席で愚痴を一方的に聞くだけの関係」だった。 だったはずだった。 その日は本当に例外中の例外だった。 旦那さんとの離婚に向けて有利な立場になるべく、探偵事務所を使って浮気の証拠を集めてもらっていたというマリ先輩が、証拠が揃ったから受け取りに行くのに付き合って欲しいと言われた。 流石に断りを入れたけれど、事務所までの道中だけというのと事務所に着いたら弁護士の人と合流するからそれまでの間の付き添いをして欲しいだけだと食い下がられ、断りきれなかった。 「事務所までっすからね、弁護士の人が来たら俺は帰りますから」 そう何度も釘を刺して、その日は先輩に付き添うことになった。
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