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プロローグ
今までの人生は、毎日が最悪だったと高知三奈は思う。
物心ついた頃から周囲はウソで溢れていた。親も、友達も、教師だってみんなウソつきだ。
三奈を取り囲む小さな世界。そこで上手に生きていくためにはウソが必要だった。だって、そうしないと周囲から浮いてしまうから。一度浮いてしまえば、この小さな世界で元の位置に戻ることは無理だとわかっていたから。
誰だって痛い思いや辛い思いをして生きていくのは嫌だ。だからウソをつく。
ウソをついて、自分の身を守っている。
そのことに気づいたのは何がきっかけだったのだろう。そして初めてウソをついたのは、いつの事だったのだろう。
そんなことはもう覚えていないが、三奈にとってウソは身を守るための武器であり、そして鎧だった。
他人に弱さなんて見せれば生きてはいけないと思っていたから。
ウソだけが自分の身を守ってくれる。そう信じていた。
だから、わかってしまった。
――優しいね、高知さんは。
高校一年の夏。
彼女が言ったその言葉はウソでも偽りでもない、真実だ、と。そして困ったように笑った彼女の顔は無垢な子供のように綺麗で、脆いガラス細工のように触れたら壊れてしまいそうで。
そのとき思ったのだ。
彼女のことを守りたい。ウソを知らない彼女を、この手で守りたい。
そう、思っていたのに。
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