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螺旋の蛇
佐倉巴は同じ映画サークルの南蜜花を特別視している。けれどそれを本人に教えてはあげない。
小学生の時に仲の良かった蜜花は、巴に何も告げることなく、私立中学を受験して別の進路を選んだ。色々事情があるのだろうし、それについてとやかく言ったりはしないが、大学で再会してしまった今、逃がすつもりはなかった。
「許してあげる。またあたしの手の中に戻ってきたから」
今日一緒に立ち寄ったアクセサリーショップで蜜花が選んでくれたピアスを、バスルームの鏡の前で自分につける。
螺旋状のシルバー素材にワンポイントのストーンが嵌まっている。植物の蔓にも見えるが、違う風にも取れる。キャッチのない吊り下げタイプのピアスだ。
鏡の前でニッと口角を上げて、それをホールに通してみた。
「蜜花、ありがと。可愛い蛇ね……」
誰もいないのに、鏡の前で囁く。誰かが見たらおかしな子だと思うだろうか。
蛇という名を与えた途端、それは蛇にしか見えなくなる。美しい銀の鱗に覆われた蛇だ。
巴という名前に似つかわしい。
蜜花がそこまで考えたとは、勿論思っていない。単に気に入ったデザインだったのだろう。アクセサリーショップで巴の耳にかざした時、とても嬉しそうに「これが似合う」と笑った。
可愛らしい、女の子。守ってあげたくなるのと同時に意地悪したくなる。
それは悪意ではない。
行き過ぎた好意だ。
蜜花のことを思うとどきどきする。
浴室で体を洗いながら、どうやって手に入れたら一番楽しいだろうと妄想する。
唇に含んだ蜜花の耳朶の感触を思い出して、自分の唇に触れてみる。
蜜花の違うところにも触れたい。けれどそれはもっと焦らしてからだった。
妄想に耽っているうちに自分の熱を持て余し、巴は入浴剤で淡く濁ったお湯の中に身を沈めた。
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