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日曜日。
いつものように蜜花と映画を観に行く約束をした。先週はシネコンとコバト座という昔ながらの小さな映画館をハシゴしたが、告知ポスターで興味をそそるタイトルがあったので、今日もまたコバト座へ行くことになっていた。
「あ、……巴ちゃん、それこの前のピアスだね。やっぱり似合う」
午前中の早い時間に、巴は南と表札のある家のチャイムを押した。いつもと違うのは、どこで待ち合わせをするかという点だった。今日は迎えに来た。
「蜜花はしてないんだぁ……なんで?」
一緒に選んだピアスを蜜花がしていなかったことに対し、不満を口に出してみる。今日はホールに何も嵌まっていない。
「あ、じゃあつけてくる。忘れてただけなの」
「えー。そんな全身コーデしといて、ピアス忘れるとか」
蜜花のガーリーな服装のチョイスには隙がない。それなのに耳元だけ失念するとは考えにくかった。
「待ってて。部屋から取ってくるから」
玄関に巴を置いて背中を向けようとする蜜花の手を引いてみた。
「えっなに?」
「また、あたしがつけたげよっか?」
にこっと意味深に笑った巴に、相手は逡巡したように固まった。先週のことを思い出したのか、頬に朱が散る。
「だ、……駄目。待ってて」
「蜜花は誘い上手だなあ。そんなエッチぃ言い方して」
「そんなんじゃないよー……」
こちらに視線を合わせることなく一人で部屋に戻った蜜花は、なんだかとても恥ずかしそうにしていた。
もしかしたら、巴につけて貰いたくてわざと外していたのかもしれない。そしてそれを悟られて、恥ずかしくなったのだ。
「……かーわい」
誰もいない玄関で、巴はぽつりと呟いた。
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