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女性客
「すみません、ここが新しくできた占い屋であってますか?」
路地裏で水晶を覗き込んでいた占い師に声がかかった。
机の上に黒いクロスがかかっていて、「占い屋、始めました」と書かれた立て看板がその隣に置かれている。
装飾品を身につけ、紫紺のフードを深くかぶっている怪しげな占い師は、顔を上げると小さく頷いた。
「はい。何か占ってほしいことでも?」
占い師の声は少し低いが女の声だ。
「実は……」
話始めようとしたお客を、椅子を手で示して座るように促す。占い師の正面に座ったスーツ姿の若い女性客は、ゆっくりとした口調で話を始めた。
「私、4年付き合ってる彼氏がいるんです。でも、最近どうにも怪しいんです。コソコソしているというか……。私に何か隠し事をしているようで」
「なるほど」
「私、どうしていいのか分からなくなって……」
私はどうすればいいですか? と続けた女性客に、占い師は何も答えずに水晶に手をかざした。
女性客は戸惑いながらも、占い師の言葉を黙って待つ。
「見えました。鞄の中に注意してください。鞄の中にある箱が鍵です」
「鞄……箱……。どんなものですか?」
「ソファーの上にある鞄です。箱は、見てみればすぐに分かるでしょう」
「そうですか、ありがとうございました」
女性客は占い師にお金を払うと、その場を去って行った。
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