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暴虐魔王
雷鳴轟く、闇夜の世界。ぼんやりとした薄明かりの灯る城内は、緊張に包まれていた。
衣擦れ一つしない、しんとした空間。今からここで、断罪が行われようとしていた。
魑魅魍魎の荒くれ者が跳梁跋扈する、魔界の中心。遥か天空を突き抜けんと聳え立つ荘厳な魔王城、玉座の間。壇上に設置された座具に肘をつき長い脚を組んでいる青年が、不適に笑う。
跪いている彼の同胞たちが、声も出せずに息を呑んだ。畏怖の中、どこか期待の交じる視線が高貴な彼の身に注がれている。
玉座のそばに立つ長身の男が、サラサラの青みがかった黒髪の青年へ、そっと口を開いた。
「魔王様、この者たちへの処罰、いかがなされますか?」
気怠げな声についと目を細め、眼下で頭を垂れる三名の上級魔族を見つめる魔王。
彼らは、非力な人間族と勝負し、負けた。屈辱にも、領地の一部を奪われた挙げ句、おめおめと背中を向けて逃げ帰ってきたのだ。剰え、一族揃って彼らを負かした人間たちに復讐し、惨殺。一つの村を焼け野原にした。
暫く、件の土地は生き返らないだろう。その罪は、重い。
上級でありながら、何という体たらく。何という愚行。相応の処罰を与えねば、心が休まらない。
魔王は、目を閉じる。小さく息を吐き、ややあって吸い込まれそうな深い黒の瞳が現れた。口端を吊り上げ、冷笑さえ浮かべている。低く心地よい美声が、言葉を紡いだ。
「そうだな……俺様のために、ペットでも連れてきてもらおうか。魔の森に生息する古代竜なんて、どうだ?」
彼の問いかけに、臣下たちがざわめく。当人たちは黙っていられず、顔を上げた。
「そ、そんな……! 魔の森は足を踏み入れた瞬間、魔力を根こそぎ吸い取られてしまいます!」
「魔力がない状態で、古代竜を相手にするなど……」
「魔王様、どうか命だけは……!」
どうして、命があると思ったのだろうか。低級の能なしでもないくせに、最低限の規律を守れない者など必要ない。魔族とは、気高き強者だ。最も弱い人間族を相手に愚行を働いた時点で、彼らは魔族ではなくなったというのに。
元エリートたちの命乞いに、黙って冷ややかな視線を向ける魔王。ふと思いついたように、唇を歪めた。
「では、一族を連れて行くことを許可する。手は、あればあるほど良いだろう?」
「一族、ですか……」
「我々の命だけでは、足りぬと……」
「魔王様、どうかお考え直しを……!」
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