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先程臣下たちへ見せていた、威厳のある姿はどこへいったのか。同一人物という真実に誰もが目を疑う彼の格好に、息を吐く無表情の宰相、グランディディエライト。
変わらぬ気怠げな声はしかし、臣下たちの前にいた時と違って、ヤル気のない棒読みだ。
「臣下たちには、見せられませんねー。歴代一の残虐魔王と畏怖され、憧れられているというのにー」
「うるさい。あれは、俺なりに最強の魔王になろうとだな、一生懸命努力してんだよ。頑張ってんだよ! そう言うお前だってな、声に感情がこもってないぞ!」
子どものように捲し立てるブラッド。対するグランは琥珀色の瞳を細め、王を冷ややかに見下した。
「臣下の前でもないというのに、貴方に対して敬意を払う必要がどこにありますかー? ねえ、臆病で気弱なブラッド」
「ぐぬぬ……」
ブラッドは、返す言葉がなかった。幼い頃から、何かと一緒に過ごしてきたグラン。年上で、頭脳明晰。冷静で辛辣な性格だが、何だかんだいいつつ世話を焼いてくれ、いつだってブラッドを助けてくれた。
彼がいなければ、ブラッドは王でいられない。要するに、頭が上がらないのだ。
だからといって、言われっぱなしではいられない。ブラッドが唯一できることと言えば、駄々をこねて甘えること。効果はなく蔑まれるが、身内に甘い彼は何度かに一回、わがままを聞いてくれていた。
「それにしても、先程の処罰はまたよく思いつきましたねー? あの者たち、生きては戻りませんよー?」
「や、やっぱり、言い過ぎだったか?」
おどおどしながら、体を起こすブラッド。やや鋭い目つきが、迫力をなくしていた。
「何を今更。処刑の方法が斬新だと、臣下たちが興奮していましたよ。彼らだけでなく一族諸共とは、さすがは暴虐魔王だとねー」
「うう……だ、だって、皆の期待がすごくて……ちゃんと添うようにしないとって思ったら、普通の処罰じゃ呆れられるだろうし……それに、あいつらはやり過ぎた。規律を破り、関係のない人間まで巻き込んだ。許していいはずがない」
「それで魔の森、ですか。古代竜へ辿り着く前に、死ぬでしょうねー」
「少しでも人手があれば、助かる確率が上がると思ってだな……家族と離されるより、一緒の方が良いかと考えたんだ。前に引き離したら、それはそれで残虐だって言われたから……良いこと言ったと思ったのに……」
拗ねたように、唇を尖らせるブラッド。面倒くさそうに一瞥し、グランは腕を組む。
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