0人が本棚に入れています
本棚に追加
全身の毛穴から滝のように汗が流れている。
私はそれをタオルで拭くこともせず、首を軽く振って耐えた。
もう、何もかも流れ出ちゃえば良いんだ。
今日はとことんデトックスの日にしよう。
「ここ、よろしいですか?」
「はい、どうぞ」
私より20歳くらい上の女性が入ってきて、私の横に腰掛けた。
「あなた、さっきからずっといない?大丈夫なの?」
「大丈夫です。サウナが好きなので...」
おばさんは「そうなの。よく耐えられるわね」と言いながら、タオルで汗を拭った。
私はもう10分程入っているので汗だくである。
もっとも、汗だけではなくて涙も混ざっているんだけど...。
おばさんはタオルで額を拭きながら、私をチラリと見た。
「あなたは1人で来たの?」
「はい。今日、1人になったんです」
しばらく間があった。
「あら。そういう意味で聞いたんじゃないのよ、ごめんなさいね。...長いこと一緒にいたの?」
「7年付き合いました。最後の方は情でダラダラという感じですけど」
「今日、何かきっかけがあったんでしょう?」
私は今朝の事を思い出していた。
同棲していた彼と、3ヶ月ぶりの外デートの予定だった。
私はとても楽しみにしていたのに、前日飲み歩いていた彼は昼になっても起きず、私が起こしても「あと5分だけ寝かせて...」と呟くだけだった。
彼のルーズなところに、私はいつもイライラしていた。
勇気を出して結婚の話題を出しても「ちょっと待って」と言うだけ。
私はもうこれ以上待てなかった。
今朝の一言が引き金になって、今まで溜まったものが耐えきれずに切れたのだ。
「その彼もびっくりね。あと5分がこんな一生に関わるなんて思っていなかったでしょうね」
「...私が我慢するべきだったのかな」
「あなたは十分我慢してきたのだから、それ以上我慢する必要はないわ。たかが5分でも彼女の時間を無駄にする男なんて付き合うだけ無駄よ。今度はあなたが待たせるくらいの良い男を見つけなさい」
相変わらず汗は止まらないが、気がつくと涙は止まっていた。
「...何だか元気が出ました。ありがとうございます」
「それは良かったわ」
室内の時計を見ると、サウナに入ってからもう15分が経過していた。
私はゆっくり立ち上がり、おばさんにお礼を言った。
「じゃあ、お先に失礼します」
「どういたしまして。...私はあと5分耐えるわ」
サウナで出会った見ず知らずの人に勇気付けられ、私は清々しい気持ちになっていた。
身体の中から新たな熱が生まれていた。
最初のコメントを投稿しよう!