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「パソコン操作なんて使用人がやればいいことで、こっちは結果だけ見聞きすればよい。
だいたい、ちまちま小さなボタンを押すのなんて貧乏くさい」
というのが理由だ。―――貧乏くさいか?
この隠れた仕事は、バァーバには内緒で、休業日にお店をこそっと使ってやろうと決めた。
あのバァーバだったら、「他人さまのためになるんなら」と、諸手をあげて賛成してくれたかもしれない。―――けど、やっぱり内緒。
腕時計に目をやると―――、
「さあ、そんなにのんびりしていられませんよ。
あっ、今日土曜か!? 生クリームイチゴサンド、売り切れちゃうかも! あれ一番人気だから!」
彼女の腕を離すと、私は走りだした。
「あ~、待ちなさいよイク~っ!」
御萌さんも駆けだした。けど、すかさず転んだ。
「ブー子!」という呼び方が、いつしか「イク!」になっていた。
なんだか御萌さんからは、「ブー子!」って呼ばれていたほうが心地よかったかも……。
彼女に手を貸して立ちあがらせた。
「どうしてはじめての女の子の友だち、私にしようと?」
ヴィンテージデニムの膝についた汚れを叩いてやっていると、ずっと秘めていた疑問がなぜかふと、喉もとまでせりあがってきた。
しかし、
「あたしのほうが速い~っ!」
いきなり子どものように彼女が駆けだしたので、その言葉は日の目を見なかった。
「生クリームイチゴサンド、あたしが全部買う~!」
得意げな声が流れてきた。
「べつに……いっか」
私のそれは、買い占められることに対してのつぶやきではなくて……。
私はすぐに彼女を追い越した。
―――世の中には知らなくていいこと、知る必要もないこと、たくさんあるから。
「こら~! ちょっとまて~!」
背中から聞こえる声に、
「生クリームイチゴサンド、私が全部買う~!」
彼女よりも得意げに答えた。
〈了〉
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