【1・私はWhy?】

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【1・私はWhy?】

     【1・私はWhy?】  『○○塾、夏季臨時英語講師募集』……『夏季限定、図書館事務補助員募集』……『大学生協、夏季限定販売員急募』……。  二日前に見たばっかりなのに……ずいぶん減ってる。  あたりまえといえばあたりまえ。いい条件ばっかりだもん。それに、うちの学生ならすぐ決まる。  前期試験が終わり、すっかり人影をなくしている事務室前の通路。そこにある掲示板をさっきからくり返し眺めているのは、酷暑の表に出る気力がなかなかわいてこなかったから。  なんでこんなところ、入っちゃったんだろ……。  減るだけで新たなバイト募集が貼られることのない掲示板が、いく度もくり返したその疑問を、ため息とともに再浮上させた。  学費同様、偏差値も高いこの白菊女子大の文学部に受かるなんて、ちっとも思っていなかった。単なる記念として受けただけで……。  合格発表があった日の夜、さっそく親族会議が始まった。  ほかにも受かった大学が一校あった。しかしそこはこことは逆に、学費は安いが偏差値も低かった。  父をはじめ、母、祖父母、そして親戚一同、大いに頭を悩ませた。  悩ませるということは、私の家庭が裕福でもなんでもなく、中流、いや、中の下流(げりゅう)ということを表している。  その中の下流の実家は、この大学がある東京から、遥か離れた田舎にある。田舎なので、ちょっとした問題が起こっても、すぐ親戚一同が会する。  結局、 「一生に一度の大学生活でもありぃ、その後の将来を考えればぁ、費用はかさんでもいい学校にいったほうがいいっぺ」  という、経済的に自分たちとは特に関係がない親戚一同の意見で、富裕層の子女が多いこの大学への入学が決まった。  だから、学費だけはなんとか実家から送ってもらってはいるけど、そのほかの生活費はすべて自己負担しなければならない。  たしかに白菊に受かったのはたまたまだとは思うけど……まったく理由がなかったわけでもない。  昔から英語が好きだった。それも英語の本を読むのが好きだった。本を読んでいるときは、うつむいていて顔を見られることもなく、自分の世界に没頭できるから。
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