【7・Summer holidays 終わっても】

1/3
前へ
/120ページ
次へ

【7・Summer holidays 終わっても】

     【7・Summer holidays 終わっても】   講義が午前中ですべて終了する土曜日。  校舎から出ると、まだまだ暑さに包まれるキャンパスは、学生たちで溢れていた。  強い陽射しを手でさえぎりながら、校外へ向かってその中を縫っていくと、 「遅いじゃないのっ! あたしを飢え死にさせる気!?」  校門の外に発生していた若い男たちの固まりを割って、毒づきながら彼女が飛びだしてきた。 「講義は最後までちゃんと出る主義ですから。御萌さんと違って」 「この間駅の近くにできたイタリアンの店、まあまあだったから今日もいくわよ」  私の嫌味を気にもとめず、キャンパスを背に彼女は歩きだした。  すると取巻きの一団から、  「えっ!?」「どこいくの!?」「なんだあのドブス!?」「化け物!?」「ゲッ!」  などという声が聞こえたけど、彼女はふり向きもしなかった。  私も関係ないので彼女に続いた。 「それより、おいしい調理パンの店やっと見つけたんで、そこいきませんか?」 「調理パン?」 「やっぱりお店の近くでした」 「調理パンて?」 「えっ、調理パン知らないんですか?」 「知らなかったらいけないの!?」  彼女の憤慨などもうなんとも思わなくなっている私は、調理パンとはいろいろな具が挟まっているパンのことで、見つけたのは昔ながらのお店で、今時のこ洒落たパンではなく、コッペパンに、これまた昔ながらのお惣菜を挟んで売っているのだと、丁寧に説明してやった。 「みんな百円前後の安さで、とっても美味しいんですよ!」 「なんであたしがそんな貧乏人の食べ物食べなきゃならないのよ!」  そういう偏見は想定内。だから全然気にしないで、 「焼きそばパンの焼きそばは、縁日の出店で売っているのと同じ美味しい麺。コロッケパンとメンチカツパンは中までたっぷりソースが染み込んでいて、ポテトサラダパンは、ちょっと酸味があるポテト。そんでもって極めつきが、生クリームイチゴサンド!」 「生クリームイチゴサンド?」 「溢れんばかりのほのかに甘い生クリームの中に、甘酸っぱいイチゴが薄くスライスされて入ってるんです!」 「生クリーム……イチゴサンド」 「それを牛乳飲みながら食べるんです! はっきりいって、ほっぺた地面に落ちます!」 「生クリームイチゴサンド……牛乳……ほっぺた地面……」
/120ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加