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【7・Summer holidays 終わっても】
【7・Summer holidays 終わっても】
講義が午前中ですべて終了する土曜日。
校舎から出ると、まだまだ暑さに包まれるキャンパスは、学生たちで溢れていた。
強い陽射しを手でさえぎりながら、校外へ向かってその中を縫っていくと、
「遅いじゃないのっ! あたしを飢え死にさせる気!?」
校門の外に発生していた若い男たちの固まりを割って、毒づきながら彼女が飛びだしてきた。
「講義は最後までちゃんと出る主義ですから。御萌さんと違って」
「この間駅の近くにできたイタリアンの店、まあまあだったから今日もいくわよ」
私の嫌味を気にもとめず、キャンパスを背に彼女は歩きだした。
すると取巻きの一団から、
「えっ!?」「どこいくの!?」「なんだあのドブス!?」「化け物!?」「ゲッ!」
などという声が聞こえたけど、彼女はふり向きもしなかった。
私も関係ないので彼女に続いた。
「それより、おいしい調理パンの店やっと見つけたんで、そこいきませんか?」
「調理パン?」
「やっぱりお店の近くでした」
「調理パンて?」
「えっ、調理パン知らないんですか?」
「知らなかったらいけないの!?」
彼女の憤慨などもうなんとも思わなくなっている私は、調理パンとはいろいろな具が挟まっているパンのことで、見つけたのは昔ながらのお店で、今時のこ洒落たパンではなく、コッペパンに、これまた昔ながらのお惣菜を挟んで売っているのだと、丁寧に説明してやった。
「みんな百円前後の安さで、とっても美味しいんですよ!」
「なんであたしがそんな貧乏人の食べ物食べなきゃならないのよ!」
そういう偏見は想定内。だから全然気にしないで、
「焼きそばパンの焼きそばは、縁日の出店で売っているのと同じ美味しい麺。コロッケパンとメンチカツパンは中までたっぷりソースが染み込んでいて、ポテトサラダパンは、ちょっと酸味があるポテト。そんでもって極めつきが、生クリームイチゴサンド!」
「生クリームイチゴサンド?」
「溢れんばかりのほのかに甘い生クリームの中に、甘酸っぱいイチゴが薄くスライスされて入ってるんです!」
「生クリーム……イチゴサンド」
「それを牛乳飲みながら食べるんです! はっきりいって、ほっぺた地面に落ちます!」
「生クリームイチゴサンド……牛乳……ほっぺた地面……」
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