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彼女は足をとめた。―――食いついた! やっぱり女子ね。
そこに、追いかけてきた固まりからの「どこいくんです!?」「送りますよ~!」「もちろん美子さんだけ!」といった声。
それを彼女は、
「うるさい! こっちは忙しいのよ! 暇人道楽息子たちと遊んでる暇はないっ! あたしは生クリームイチゴサンドっ!」
と、最後はわけのわからない台詞で一蹴した。
再び歩きだした私たちを、あっけにとられた彼らは、もう追いかけてはこなかった。
「猫野神社で食べませんか? あそこ涼しいし」
「店で食べればいいじゃない。もっと涼しいわよ」
「調理パンは表で食べるのが通なんです。特にコッペパンの調理パンは」
嘘ぶっこいた。
だって暑いけど、こんな天気のいい日のお昼は、外じゃなきゃもったいない。
「えぇ~。あそこ蝉多いから、おしっこひっかけられたらどうすんの~?」
「そんなこと気にしてちゃ生きていけません」
それでも「えぇ~」とごねるので、
「早くいって早く食べないと、バイトに遅れますよ!」
彼女の腕をつかんで足を速めた。
「あたし、バイトじゃなくて手伝いだもん」
「でも、もし依頼人がきちゃったらどうすんですか?」
「……それはそうね」
それで彼女は歩調を合わせた。
《呪い解き、はじめました!》の紙は、もう玄関の横には貼ってはいない。(バァーバが帰ってきたあの日も、惨状を呈するお店に入る前、御萌さんがこっそりはがしたのだった。幸い、バァーバにもスタッフにも気づかれなかった)
でもかわりに、私はネットで《呪い解き、やります!》を宣伝していたのだ。
いただいたバイト代の一部で、生まれてはじめてパソコンを購入した。もちろん勉強に使用するのが主な目的。
同時にネットにもつないだ。すると、契約したプロバイダーが、一件だけ無料でHP制作ができるサービスを提供していたので、それを利用し《呪い解き》のページをつくった。
これはふたりで充分相談して決めたこと。
でも、実はどちらかというと、私のほうが乗り気だった。
自分の能力は、意外と他人のために役立つんじゃないかしら?―――ふり返ってみてそう思ったから。生き霊はもうこりごりだけど。
ついでにいうと、御萌さんは今まで一度もパソコンを持ったことがなかった。
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