【1・私はWhy?】

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 揉めごとを楽しげに見物していたと思われて、彼女の怒りがこっちに飛び火してきてはかなわない。私はあの事務員のように、根拠のない糾弾に耐えきれる意思も度胸も持ち合わせてはいないのだ。  どうしよう!?  ……とり急ぎ、目をそらすべきっ!  しかし―――、  鋭い眼光に射すくめられた私は、微動だもできなくなっていた。  彼女の切れ長の目が、ゆっくりと見開かれていった。  実際それはゆっくりだったのか……。  もしくは恐怖のあまり、私の視認速度がスローになっていたのか……。  とにかく頭の中は、 「どうしよう!?」  という言葉が駆けまわる。  だけど、一向に解決策を見つけることはできず、脳からの命令を今か今かと待っている躰は、クーラーが充分効いているこの通路にあっても、汗を噴きださせるしか能力を発揮していなかった。  彼女の目が最大限まで開かれ、ゆっくりとあがった右手が、はっきり私を指した。 「あんたー! なに見てんのよー!」  という怒声が突き刺さってくる! そう覚悟したとき―――、  突如、美顔がふにゃっと歪んだ。  ん……?  次いで、 「ドゥヒャッヒャッヒャッヒャ~!!!」  目と同様、大きく開かれた彼女の口から爆音。  ん……!? 「ワッヒャッヒャッヒャッヒャ~!!!」  轟きは絶え間なく続く。私に向けた指先も、歪んだ顔もそのまま。そして瞳は、今にも涙がこぼれんばかりに潤んでいて……。 「ギャヒャッヒャッヒャッヒャ~!!!」  事務員の若い女性が窓口から顔を出した。そしてこっちに視線をよこすと、たちまちその目を瞠らせ、手で口を覆った。しかし、ここからでもわかる肩の震えは隠せなかった。  それでやっと気づいた。  御萌さん、私を見つけて……大爆笑しているのだ。  当然その原因は……顔。彼女が私の顔から視線と指先をずっと外そうとしないのが、その証拠。  こんなに堂々と、おおっぴらに笑われた経験はなかった。それゆえ、陰湿さが感じられず、かえってすがすがしいきぶ~ん―――なわきゃ~ない!  いつの間にか金縛りが解けていた私は、とりだした手帳をそそくさとバックにしまった。  自分の容姿を笑われて喜ぶようなM的性癖は、私にはない。  それに、どうせ応募したところで……。  そんな思いが誘い水となり、  やっぱりこんな自分なんて……。  という気持ちも頭をもたげた。
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