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【2・背に腹はCan’t change】
【2・背に腹はCan’t change】
コンクリートも溶けだしそうな陽射しの中でも、白由が丘の街は人で溢れていた。
多種多様の洒落た店がひしめき合っているこの街の人波は、若者が大勢を占めている。いい換えればそれは、年配者向けの店舗が多くないということになる。
大学からもそう離れてはいないこの街に、私もときどき足を運ぶ。ただそれは気候のいいころに限って。―――好き好んで暑い中、こんな雑踏にきたいとは思わない。
しかしその意思を無視し、こうして連なる店々を眺めながら歩いているのは……。
大学の掲示板に告知されているものではまず望みなしと考え(応募しようと思っても、御萌さんの大爆笑に阻止された)、この街中で募集されているバイトを、足を使って探すことにしたから。なにしろいち速く行動を起こさなければ、生活していくことがままならなくなる。
洒落た界隈など自分には不似合いと思ったけど、これだけ店が多ければ、という希望と、とりあえず大学に一番近い繁華街から攻めてみよう、という考えからトライした。
貼り紙がされてある店を見つけると、募集内容を吟味し、ウィンドーに映った自分の顔を見ないよう努めながら、店内の雰囲気を観察した。吟味や観察など悠長なことはいっていられないんだけど、やはり雇ってもらえそうなところをまずは選んだほうがいい。
そして、「ここだ!」と思って飛び込む。……でも、ダメ。
どこの店でも私を見た途端、
「間に合ってます」
「募集は終了しました」
「結構です」
という拒否の嵐。―――募集の貼り紙、堂々と貼ってあるのに。
それが四、五件だったらなんとか次に望みをつなげるけど、もう軽く一〇件はそうやって断られた。
ある程度覚悟していたとはいえ、いざそれが現実となってみると、地の底までテンションが落ちる。そして肩も落ちる。
結局、バイト募集をしている店を、私はすべて尋ね、すべて断られたのだった。
*
……ここは?
顔をあげると、車がやっとすれ違えるぐらいの通り―――その片隅だった。
道の両側に大きな建物は見あたらず、かわりに、ところどころ高低多数の緑が植わっている。人通りも少ないので、騒がしさもない。
ああ……。
暑さで朦朧とした頭でも、ここがどこであるのか気づいた。
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