矢田くんとの遭遇。

5/10
前へ
/10ページ
次へ
 すると、彼は何かを堪えるような顔をした。あ、ごめん。ここまであからさまにされるのは嫌だよね。後ろに逸らしていた体を戻して、膝の上に手を置いて優雅に座った。 「だって、村田さんが「矢田くん」って・・・・・・、俺の名前を呼んだんじゃん」 「え、君「矢田くん」っていうの」  さっき私が「やだ、ヤダ、矢田くん!」とノリで言ったら、たまたま矢田くんがいたというのか。何という奇跡なのだろうと、私は体を震わせて全身で感動を表した。  だが、雲行きは怪しくなっていく。 「うん、しかも君とはクラスメイトだよ」 「え、クラス、メイトだと・・・・・・?」  そう言った瞬間、彼の目から光が消えた。これは漫画とかである「闇堕ち目」という奴だ。私は、彼の地雷を踏み抜いてしまったようだ。  私は彼を思い出そうと彼の顔を無遠慮なほど観察するが、何にも思い出せない。こうして至近距離で見ていても、校則に引っかからないような短めの黒髪に、野暮ったい黒縁眼鏡、存在感がないイマドキ塩顔男子な彼を見た記憶が、私にはない。  やばい、どうしようか。脳味噌をひっくり返して思い出そうとしても、「見た覚えはない」という答えが出るだけだ。本格的にヤバい。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加