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すると、彼は何かを堪えるような顔をした。あ、ごめん。ここまであからさまにされるのは嫌だよね。後ろに逸らしていた体を戻して、膝の上に手を置いて優雅に座った。
「だって、村田さんが「矢田くん」って・・・・・・、俺の名前を呼んだんじゃん」
「え、君「矢田くん」っていうの」
さっき私が「やだ、ヤダ、矢田くん!」とノリで言ったら、たまたま矢田くんがいたというのか。何という奇跡なのだろうと、私は体を震わせて全身で感動を表した。
だが、雲行きは怪しくなっていく。
「うん、しかも君とはクラスメイトだよ」
「え、クラス、メイトだと・・・・・・?」
そう言った瞬間、彼の目から光が消えた。これは漫画とかである「闇堕ち目」という奴だ。私は、彼の地雷を踏み抜いてしまったようだ。
私は彼を思い出そうと彼の顔を無遠慮なほど観察するが、何にも思い出せない。こうして至近距離で見ていても、校則に引っかからないような短めの黒髪に、野暮ったい黒縁眼鏡、存在感がないイマドキ塩顔男子な彼を見た記憶が、私にはない。
やばい、どうしようか。脳味噌をひっくり返して思い出そうとしても、「見た覚えはない」という答えが出るだけだ。本格的にヤバい。
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